アパート

カラテカ・矢部、大家さんとの「心温まるエピソード」を告白し共感拡がる

(画像はTwitterのスクリーンショット)

10月31日にカラテカ・矢部太郎が、88歳の大家さんとの実話を描いた漫画『大家さんと僕』(新潮社刊)を発売した。

8日に放送されたフジテレビ系情報番組『ノンストップ!』では、矢部にインタビューを実施。その内容が話題を呼んでいる。

 

■最初は戸惑いもあったが…

現在のアパートに引っ越して8年、矢部は大家さんに家族同然の付き合いをしているようで、食事や手紙のやり取りなど思い出も尽きないようだ。

矢部が語る大家さんとは…

「物理的にも精神的にも距離が近くて、家に帰ると『おかえりなさい』と電話がかかってきたりする。雨が降ると洗濯物を取り込んでおいてくれたりもする」

 

と、距離感の近さを語った。初めは戸惑ったが、毎月お茶に誘われて話をする中で戸惑いはなくなり、大家さんのことが好きになったようだ。

 

■大晦日は仕事を入れない

年末は、大家さんがおせちを取って、一緒に食べることから大みそかは仕事が入らないようにNGを出しているという矢部。しかし、どうしてそこまで、大家さんとの時間を大切にするのだろうか。

「自分のおばあちゃんにあまり会ったことがなくて、もっと会いたかったなとか思っていたこともある。そういうのもあり、大家さんの話がおもしろいし大家さんによくしたいなというのがある」

 

過去の経験から大切にしようと感じているようだ。一方の大家さんも「引っ越してきてくれて、寿命が延びた」と言うほど、矢部の存在を嬉しく感じてるようで、二人は相思相愛の仲だという。

上の住人と重なる生活音 2/2

前回までの話はこちら

そうこうするうちに3ヶ月が過ぎ、フリーにも飽きた頃、奴は明らかに風邪をひいていた。

 

ゴホゴホと散発的に咳をしている。

 

その日は確か、月曜日か火曜日で週の初めだった。

 

どうやら奴は病欠したようだ。

 

昼ぐらいまでウトウトしていて、ふと思った。

 

向こうの音がこれだけ聞こえるということは、こちらの音も多少ながら向こうに聞こえている訳で、ここで私が昼日中から家に居ることが分かると、奴の方ではどう思うだろうか?

 

当然、奴の方も驚くに違いない。

 

私が思っていたことが、これから奴の考えることになるのではないか?

 

人の目覚ましで起きていたり、同じ時間に風呂やトイレに入ったり、気味の悪い奴だと感じていたそれが、向こうから見れば私が「気味の悪い下の住人」という訳だ。

 

ああ、弱ったな。

 

身動きが取れない。

 

でも、風呂はともかくトイレには行かざるを得ない。

 

ゆっくりこっそり戸を開けて静かに用を足し、不自由に過ごした。

 

早く就職して、この不自由から脱出したい。

 

切に願った。

 

「パキッ」

 

すっかり夜更けになった頃、ベランダの方で音がした。

 

寝ぼけ眼で窓を見ると、街頭に照らされた植え込みの影がさざめいている。

 

掛けっぱなしのハンガーが風でガラスに当たったのだろう。

 

「コーンッ」

 

ベランダの外枠は金属で出来ている。

 

ハンガーが落ちたか?

 

さほど気にする気もなく、もう一度窓を見る。

 

なにか違和感が・・・。

 

もの凄い圧迫感がある。

 

なんだろう?

 

気味が悪い・・・。

 

時間は夜の9時。

 

しまった!見たい番組があったんだ!

 

バッと飛び起きて電気を点ける。

 

録画しなきゃ。

 

テレビのリモコンに手を伸ばした時、窓の淵で何かが動いたような気がした。

 

視界の端にチラッと感じたが、とりあえずテレビ。

 

そしてトイレへ。

 

戻って来た時、先ほどの窓の淵を見てゾッとした。

 

手の跡が付いている!

 

その跡は正確には手のひらではなく、指先がスライドしたような跡。

 

つまり、誰かが窓を開けようとして指先で押してすべった跡だ。

 

背筋がキューッと寒くなった。

 

ライトを持って来て、さらに確かめてみた。

 

反対側の窓の淵にも指の跡があった!

 

ゾクゾク背筋か寒くなる。

 

これはヤバイ!

 

誰かが進入しようとしている!

 

怖くてパニックになりオロオロしていると、これでもかというタイミングで電話が鳴った。

 

ビックリして本当に3センチぐらい飛び上がった。

 

番号表示機能が無い電話機だったので、誰か分からない。

 

留守電に切り替わるまで心臓をバクバクして見守るしかなかった。

 

「おらんのか?おーい、A子」

 

お父さん?!

 

なんというタイミング!

 

普段はウザイだのムカツクだの思っていた父親が、この時ほど偉大な守護神に思えたことは無かった。

 

夜中というのに、隣県から父親が来てくれた。

 

母親も一緒に来てくれた。

 

一晩、文字通り川の字になって寝た。

 

この時ほど両親がありがたい存在だと実感した時はなかった。

 

なんて自分は幸せだったのかと、そう思うと涙がこぼれて泣きながら爆睡した。

 

その夜、父親はトラップを仕掛けていた。

 

ビデオカメラで指跡の着いた窓を録画し続けたのだ。

 

すでにお分かりだろうが、そこに映っていたのは「上の住人の男」だった。

 

そう言えば、いつからか見かけなくなったパンツが何枚かあった事とか、風呂に入る度に外を人が歩いていく音を聞いたとか、思い出すとあれもこれもいろいろ不審な事象があった。

 

とりあえず一件落着した。

 

後日、警察へ行くことになるのだが、上の住人の男がどうなったかは想像に任せる。

 

(終)

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上の住人と重なる生活音 2/2

前回までの話はこちら

そうこうするうちに3ヶ月が過ぎ、フリーにも飽きた頃、奴は明らかに風邪をひいていた。

 

ゴホゴホと散発的に咳をしている。

 

その日は確か、月曜日か火曜日で週の初めだった。

 

どうやら奴は病欠したようだ。

 

昼ぐらいまでウトウトしていて、ふと思った。

 

向こうの音がこれだけ聞こえるということは、こちらの音も多少ながら向こうに聞こえている訳で、ここで私が昼日中から家に居ることが分かると、奴の方ではどう思うだろうか?

 

当然、奴の方も驚くに違いない。

 

私が思っていたことが、これから奴の考えることになるのではないか?

 

人の目覚ましで起きていたり、同じ時間に風呂やトイレに入ったり、気味の悪い奴だと感じていたそれが、向こうから見れば私が「気味の悪い下の住人」という訳だ。

 

ああ、弱ったな。

 

身動きが取れない。

 

でも、風呂はともかくトイレには行かざるを得ない。

 

ゆっくりこっそり戸を開けて静かに用を足し、不自由に過ごした。

 

早く就職して、この不自由から脱出したい。

 

切に願った。

 

「パキッ」

 

すっかり夜更けになった頃、ベランダの方で音がした。

 

寝ぼけ眼で窓を見ると、街頭に照らされた植え込みの影がさざめいている。

 

掛けっぱなしのハンガーが風でガラスに当たったのだろう。

 

「コーンッ」

 

ベランダの外枠は金属で出来ている。

 

ハンガーが落ちたか?

 

さほど気にする気もなく、もう一度窓を見る。

 

なにか違和感が・・・。

 

もの凄い圧迫感がある。

 

なんだろう?

 

気味が悪い・・・。

 

時間は夜の9時。

 

しまった!見たい番組があったんだ!

 

バッと飛び起きて電気を点ける。

 

録画しなきゃ。

 

テレビのリモコンに手を伸ばした時、窓の淵で何かが動いたような気がした。

 

視界の端にチラッと感じたが、とりあえずテレビ。

 

そしてトイレへ。

 

戻って来た時、先ほどの窓の淵を見てゾッとした。

 

手の跡が付いている!

 

その跡は正確には手のひらではなく、指先がスライドしたような跡。

 

つまり、誰かが窓を開けようとして指先で押してすべった跡だ。

 

背筋がキューッと寒くなった。

 

ライトを持って来て、さらに確かめてみた。

 

反対側の窓の淵にも指の跡があった!

 

ゾクゾク背筋か寒くなる。

 

これはヤバイ!

 

誰かが進入しようとしている!

 

怖くてパニックになりオロオロしていると、これでもかというタイミングで電話が鳴った。

 

ビックリして本当に3センチぐらい飛び上がった。

 

番号表示機能が無い電話機だったので、誰か分からない。

 

留守電に切り替わるまで心臓をバクバクして見守るしかなかった。

 

「おらんのか?おーい、A子」

 

お父さん?!

 

なんというタイミング!

 

普段はウザイだのムカツクだの思っていた父親が、この時ほど偉大な守護神に思えたことは無かった。

 

夜中というのに、隣県から父親が来てくれた。

 

母親も一緒に来てくれた。

 

一晩、文字通り川の字になって寝た。

 

この時ほど両親がありがたい存在だと実感した時はなかった。

 

なんて自分は幸せだったのかと、そう思うと涙がこぼれて泣きながら爆睡した。

 

その夜、父親はトラップを仕掛けていた。

 

ビデオカメラで指跡の着いた窓を録画し続けたのだ。

 

すでにお分かりだろうが、そこに映っていたのは「上の住人の男」だった。

 

そう言えば、いつからか見かけなくなったパンツが何枚かあった事とか、風呂に入る度に外を人が歩いていく音を聞いたとか、思い出すとあれもこれもいろいろ不審な事象があった。

 

とりあえず一件落着した。

 

後日、警察へ行くことになるのだが、上の住人の男がどうなったかは想像に任せる。

 

(終)

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上の住人と重なる生活音 1/2

 

5~6年前の話になる。

 

一人暮らしをしていた頃、アパートの真上の住人の生活音がうるさかった。

 

強がりの弱虫な私は、徐々にエスカレートする生活音にイライラしていた。

 

歩いたり、戸を開けたり、そんな音ならお互い様と思っていたのだが、何ヶ月も時間が過ぎると「生活のリズムが似ている」ことに気が付いた。

 

と言っても、上の住人も社会人らしかったから、朝起きる時間や寝る時間が近いのは当たり前なのだが、風呂の時間やトイレの時間まで重なるとかなりイヤである。

 

しかも、結構な確率で重なる。

 

タイミングをあえて外したりずらしたりしていたのだが、狭いアパートで全室同じ造りだからか、動線が似てくることはあるかも知れない。

 

ひょっとして上の住人も同じように考えてずらしたりしていたのだとしたら、結局タイミングが重なってしまう。

 

裏の裏はまた裏、いや表と見せかけてまた表、くだらない動線ずらしの果てに、同じタイミングで風呂に入ったりしていた。

 

あえて気にするからそうなるのだと思い、努めて気にしないようにしてはいたのだが、上の住人と同じ考えだったのか、やはり重なる。

上の住人の正体

ある時、祭日振り替えの平日休みがあった。

 

プレステでゲームをしていたら、咳き込む音がした。

 

「上の住人も休みだったのか?!」とちょっと驚いた。

 

と言うのも、その日は休日振り替えの祭日ではなく、私の務める会社が祭日返上営業した振り替えの休日だったからだ。

 

つまり、同じ会社の人間だけの休みなのだ。

 

「いや、同じ様な休みを取った会社ならいっぱいあるだろう」と思われるかも知れない。

 

それが祭日の翌日、翌々日だったらありえる事だ。

 

一週遅れで暇な日を見つけて休日にした会社だったら、確率は下がるのではないか?

 

それでも、たまたま上の住人が風邪でもひいて、休んだ日が重なったんだと思えば偶然でしかない。

 

その時は、「珍しいこともあるもんだ」と、それしか言いようがなかった。

 

それから半年が経ち、めったに風邪をひかない私が寝込んだ。

 

結構な熱が出て、お昼にテレビを見ながらうつらうつらしていると、上の部屋からバタンッ!と戸が閉まる音がし、ドスドス歩く音がした。

 

目が点になった。

 

今日は祭日でもない金曜日。

 

上の住人は、お昼のこの時間に帰って来たのか?

 

忘れ物でも取りに帰ったのかと思っていたが、一向に出て行く気配が無い。

 

あれ?やっぱり帰って来たのか?

 

あるいは、上の住人は大学生かなにか、会社員とは違う人種なのかと。

 

それからまた半年ほど経った頃。

 

その日、朝寝坊してしまった。

 

仮病で「休ませて下さい」と嘘をつき、ズル休みをした。

 

名目上は風邪なので、おとなしくプレステでゲームをやろうとした。

 

アパートの住人は隣のばあさんを除いて、会社員か類するものばかりだから、何もない平日には人の気配が無い。

 

・・・はずだった。

 

なんと、上の住人が居る!

 

長い間、奴の生活音を苦にしていると、それが奴か奴でないかは分かる。

 

この時は、プレステに伸ばした手が硬直するほど驚いた。

 

どうやら、奴は慌てたらしい。

 

ガタガタやってドアを開けて走っていく音が聞こえた。

 

窓から見ると、スーツ姿の男が遠ざかっていく。

 

もしかしたら、上の住人はいつも私の目覚ましで起きていたのか?

 

今までの奇妙なリンクはそれかも知れない。

 

そう考えると合点がいくようだ。

 

フタを開けると他愛もないからくりだった訳だ。

 

そして2年が過ぎ、色々あり転職することにした。

 

まあ簡単に言えば、「後のことを考えず辞表を出した」のだが、後のことを考えてなかったのでしばらくは無職だった。

 

最初の1ヶ月ぐらいは自由を謳歌していた。

 

昼まで寝た。

 

朝までテレビを見た。

 

自堕落な生活を楽しんでいた。

 

先の予想通り、上の住人は私の目覚ましで起きていたようで、その1ヶ月は慌てて出勤する姿をよく見かけた。

 

しばらくすると慣れてきたのか、私が起きるのが遅いのか、慌てる奴を見かけなくなり、夜10時や11時過ぎに帰ってくるようになった。

 

2ヶ月を過ぎると奴の生活リズムが狂い始め、夜中の2時や3時にトイレに行く音が聞こえるようになった。

 

(続く)上の住人と重なる生活音 2/2

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夜な夜な聞こえる壁を引っ掻く音

 

知人が体験した話です。

 

彼は杉並区にある築40年は経とうかという古い木造アパートに一人暮らしをしていました。

 

最近ではどこもそうでしょうが、隣人とも会話は無く、すれ違い様に会釈する程度の付き合い、という人も多いのではないでしょうか。

 

彼も越してきて半年にもなりますが、隣に住む人の顔も知らなかったそうです。

 

そんなある日、隣人とたまたますれ違った時に、「あんたさぁ、夜中に壁を引っ掻くのを止めてくれない?うるさくて眠れないんだけど」と言われました。

 

彼はサッパリ意味が分からず、「そんなことしませんよ?夜中は寝てますし」と。

 

しかし隣人は、「次にやったら大家に言うからね」と吐き捨て、部屋に戻っていきました。

 

もちろん彼は身に覚えはありません。

 

近所付き合いなんて面倒だな、という程度にしか捉えませんでした。

 

その翌日の夜、仕事から帰宅して疲れ切っていた彼は、すぐに布団に横になって眠りにつきました。

 

深い眠りについていた時、突然壁を「ドン!ドン!」と叩く音が。

 

彼はその音で驚き、目を覚ましました。

 

眠気まなこで彼は、「隣の奴だな・・・なんだってんだよこんな夜中に・・・」と、急に起こされたせいでイラつきました。

 

が、疲れていたので再び眠りにつこうとした時、「カリカリ、カリカリ」と、なにかを引っ掻くような音が聞こえるのです。

 

ネズミかな?と月明かりしか差さない薄暗い部屋を見渡すと、隣人に叩かれた壁側に、5歳くらいの小さな男の子が壁を向いて座っていたのです。

 

そして男の子は爪で土塗りの壁を「カリカリ、カリカリ」と。

 

彼は凍りつきました。

 

隣人の言っていたことは本当だったのです。

 

10分ぐらい経った頃でしょうか、彼はしばらく布団の中からその男の子の様子を見ていましたが、意を決して男の子に訊きました。

 

「ぼく、なにやってるの?」

 

すると男の子はこちらを振り返り、「この中にお母さんがいるの」と言った後、再び壁をカリカリと引っ掻き始めました。

 

その後、すぐに彼が引っ越したのは言うまでもありません。

 

(終)

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壁越しに聞こえてくる女の声

 

引っ越して3ヶ月、大家のじいさんが亡くなった。

 

すると息子がやってきて、「ボロアパートを新築するから出て行って欲しい」と言われた。

 

貧乏学生だった俺は、当然のようにごねた。

 

「引っ越す金と時間が無い。当分無理」、と。

 

40くらいの息子は条件を訊いてきたので、「似たようなアパートをそっちで手配してくれ。それと敷金に礼金、引越し代金を全て負担するならすぐにでも出て行く」と言った。

 

妥協案を出した早々、その週の土曜日に運送屋がやってきた。

 

そうして、そのボロアパートからちょっと離れた物件に入居することになった。

半年後に精神を病む

木造モルタル2階建て、1DK、ユニットバス付、築30年くらい。

 

外観は今より若干マシ。

 

何よりも、家賃が同じでユニットバス付が嬉しかった。

 

内心、息子と不動産屋に感謝したくらいだ。

 

銭湯通いと共同トイレから解放されたが、コンビニや外食には不便なこともあり、それまで寝るだけだった部屋で過ごす時間が増えた。

 

この部屋なら女の子を招くことも出来るし、金があればデリヘルも呼べる。

 

そんな期待さえ出てきたが、仕送りなしの貧乏暇なし生活が変るはずもなく、彼女などは儚い夢に過ぎなかった。

 

相変わらずバイトと学校で毎日クタクタ。

 

だが引越して以来、休みの日は外出もせず部屋で過ごすことも多くなった。

 

そんなある休日。

 

部屋で試験勉強をしていたら、壁越しに女性の笑い声が聞こえてきた。

 

角部屋の隣人はサラリーマン。

 

ほとんど不在で、これまで話し声はおろか、テレビの音さえ聞こえてきたことはない。

 

見た目は普通の30代前半の、彼女がいてもおかしくない感じ。

 

俺は勉強よりも隣人がやるであろう行為が気になり始めた。

 

男と女が部屋に居れば、いつ始まってもおかしくない。

 

思い余った俺は壁にコップを押し当て、耳を澄まして気配を窺った。

 

物音はせず、なぜか甲高い女の笑いしか聞こえない。

 

後に気が付くが、それが事の始まりだった。

 

その日から一週間くらいして、夜になり再び女の声が漏れ聞こえた。

 

俺はそっと部屋を出て、外から全ての部屋をチェックした。

 

22時過ぎくらいだったと思うが、隣も下も部屋の明かりは消え、人の気配は無かった。

 

平日なら大体隣人が部屋にいる時間帯だったが、ドアの開け閉めくらいしか聞こえてこない。

 

みんな他人の迷惑にならないよう、ひっそり暮らしている感じだった。

 

アパートは最寄の駅から徒歩20分以上、まさに閑静な住宅地で、時々人恋しくなることもあるくらい静かだった。

 

一体あの声はどこから聞こえてくるんだ?

 

気になって仕方がなくなった頃には、3日おきくらいに女の笑い声に聞き耳を立てていた。

 

住人に女性は一人もいない。

 

それがどこから聞こえてくるのか、誰なのか、そして何を笑っているのか、俺は半年後に精神を病んだ。

 

いつしか女の笑い声はせつない喘(あえ)ぎ声に変り、俺は眠れなくなっていた。

 

もう壁に耳を当てる必要もなかった。

 

女の声は俺の頭の中で聞こえ、俺の名前を囁き、俺を誘惑するようになった。

 

しかし、恐怖は全然なかった。

 

ずっと夢だと思っていたし、女の呼ぶ声で眠りに落ちるようになっていた。

 

やがて学校やバイト先でも睡眠不足からミスが重なり、数人の友人が気にかけてくれるようになった。

 

そのうちの一人が、「最近彼女出来たやろ。やり過ぎは気を付けろよ」と、目の下に出来たクマを笑った。

 

最も仲の良い友人からは、「どこで知り合ったんだよ。今度紹介しろよ」と言われ、俺はこう答えたそうだ。

 

「紹介はちょっと無理かな」

 

俺は覚えていないが、はっきりとそう言ったらしい。さらに・・・

 

「彼女は39歳の会社員で、ずっと勤務先の男と不倫を繰り返してきたんだ。やっと独身の男と知り合えて、結婚まで決めてたけど捨てらたんだ。年はいってるけど凄い美人だよ。会社の受付嬢や秘書をやってたくらいだから」、と。

 

友人は驚いて、さらに訊ねたという。

 

「どうやって彼女にしたんだ?てか、写真とかないの?」

 

この時の俺は笑みを浮かべ、うっとりしとた表情だったらしい。

 

「だから無理だって。彼女は首吊って自殺したんだよ。ずっと前に死んでる。あと、知り合ったのは今住んでる部屋でだよ」

 

俺は友人によって命を救われたようだ。

 

けれど、今でも最愛の彼女を失ったような気がする。

 

(終)

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部屋の中をぐるぐる歩き回る者

 

知り合いの本田(仮名)が、仕事の関係で1ヶ月ほど小田急線沿いの某町に引越しすることになった。

 

仕事が休みだった土曜日、友人2人(A、B)と俺の合わせて3人で、本田の引越しを手伝うことになった。

 

滞在予定期間も1ヵ月と短く、また小規模な引越しだったので、当日の昼過ぎには荷物を運ぶ作業も終わり、雑然としたその部屋で酒を飲みながら麻雀をやった。

 

俺は翌日早くに仕事があったので、先に切り上げることになった。

 

終電に乗り、20分もすれば自宅に着くような距離だった。

 

数日後の平日、引越しを手伝った友人のAがうちへ遊びに来た。

 

2人で飲んでいると、「あいつの家で不思議な体験をした」と言ってきた。

誰かが部屋の中を・・・

あの日、俺が帰った後に3人で飲んでいたそうだが、次の日も休みだからと、そのまま雑魚寝していたらしい。

 

だが、部屋の主の本田は翌日に仕事があったので、床に転がっている2人(A、B)を置いて仕事に行ったのだそうだ。

 

寝ぼけまなこの状態のAは横になったまま、細い目で本田を見送った。

 

しかし数分後、本田が戻って来たようだった。

 

部屋をぐるぐる回っているので、「忘れ物でもしたのか?」と寝ながら様子を見ていた。

 

だが、どうも様子がおかしく、物を探しているというよりは、ただ部屋を徘徊していた感じだったという。

 

しまいには、部屋の隅で座ったまま動かないので、「どうかしたのか?」と思ったAは、重い体を起こして部屋を見渡すと、部屋には自分と友人B以外、誰も居なかった。

 

「あれは、どうも本田じゃなかったと思うんだよ」とAが言うので、「金縛りで見る幻覚じゃないのか?不思議なこともあるもんだな」と俺は首を傾げた。

 

よくある体験話だし、その時は特に気にも留めていなかった。

 

次の週末、引越しに携わった4人で仕事終わりに飲むことになった。

 

他愛のない話をしていると、「数日前に不思議な体験をした」とBが言い出した。

 

話を聞くと、Aが体験したものと同じような体験をしていたようであった。

 

それを聞いて面白くなったAは、「俺も数日前に同じような体験をした」と言った。

 

そして2人の体験談を聞いた本田が、さらに奇妙なことを言い出した。

 

「実は俺も最近、自分の家で寝ていたら、誰かが部屋の中をぐるぐる歩き回るんだよ。でも起きたら誰も居ないんだよな」

 

・・・と、AやBと同じようなことを言い出したのである。

 

AとBが、「俺たちの話はお前の家で起きたことだぞ?」と言うと、怖い話が苦手だった本田は、すっかり縮み上がってしまった。

 

「おい、一緒に来てくれよ。俺、もうあの家に帰れないよ」

 

その日、怖がりの本田は家へ帰れるわけもなく、しばらくAの家に泊まることになった。

 

しかし、部屋を放っておくわけにもいかないので、翌日に再び4人で本田の家に行こうということになった。

 

次の日の昼、最寄の駅で集合し、4人で本田の家へ向かった。

 

1ヵ月ほどの滞在ということだったので、至って普通の安アパートの一室だ。

 

引越し当日こそ何も感じなかったが、3人が同じ奇妙な体験をしたこともあり、『何かあるはずがない』と思えるわけもなく・・・。

 

部屋に入ると薄気味悪く、何か不穏な空気が漂っているように感じた。

 

しかし、部屋に特筆するほど変わった部分があるわけでもなかった。

 

「なあ、このタンス、Aが運んだの?」

 

Bが部屋の片隅にあるタンスを触りながら、何気なくAに尋ねた。

 

Aはそのタンスを運んで来た覚えが無く、「そもそもこんな大きいもの持って来たっけ?」という話になった。

 

すると本田が、「そのタンスは元々あったやつだ」と言った。

 

「もったいないからそのまま使ってくれ」と大家が言ってきたそうだ。

 

タンスはいかにもタンスらしい普通のもので、中に何か物が入っているわけでもなかった。

 

やはり見渡す限り部屋には何も奇妙な点は無く、特にやることもないので、本田は荷物の細かい整理を始めた。

 

向かいの壁に背を付けるほど離れてタンスを見ると、ちょうどタンスの上端、奥の壁に、木の枠のようなものが見えた。

 

つま先を伸ばし、背伸びして見ると、押入れや窓の枠のような、木で出来た囲いがはっきりと見えた。

 

「タンスの奥に何かあるんじゃないのか?」と思った俺は、3人を呼んで重いタンスを横にずらした。

 

タンスの裏には、木の扉で出来た小さな押入れがあった。

 

「何故これを隠すようにタンスを置いてあったのか?」と考えると、ゾッと背筋が寒くなった。

 

ただ呆然と押入れを眺める4人の間には、異様な雰囲気が漂った。

 

居ても立ってもいられなくなったAが、扉に手をかけた。

 

「おい!」と静止しようとしたが、Aは構わず勢いよく扉を開けた。

 

「うわっ!!」とAは叫び声を上げ、何かに驚いて尻餅をついた。

 

どうしたんだと思い押入れの中を見ると、暗い空間の中に『一体の人形』がポツンと座っていた。

 

見た感じでは普通の人形であったが、3人の霊的現象の媒体だと考えるには十二分に相応しい雰囲気を醸(かも)していた。

 

人形には触りたくもなかったが、その人形を持って不動産屋へ事情を訊きに行くことにした。

 

駅まで歩いて電車に乗り、ひと駅先にある不動産屋に着いた。

 

事情を話し、人形を見せて尋ねると、不動産屋の担当者は心当たりがあったようで話をしてくれた。

 

なんでもこの人形、あの部屋に以前に住んでいた母子家庭の女の子が持っていたものだという。

 

「忘れて置いて行ってしまったんだね」と担当者は寂しそうに言った。

 

その家族は実は、このアパートに戻って来る予定だったそうだ。

 

だが、女の子が重い病気を患ってしまい、長く入院する必要があった。

 

その為、入院先の大学病院に近い場所へ一時的に住むことにし、やむなく引越しをしたそうだ。

 

しかし数ヵ月後に母親が訪れ、「もう部屋は必要無くなったので・・・」と話をしたという。

 

担当者は深く理由を尋ねなかったが、おそらく女の子の手術に失敗したのでは、と思ったそうだ。

 

そのしばらく後に、本田が入居して来たようであった。

 

話を聞いた俺たち4人は、部屋を徘徊していた人影の正体は、人形を探していた女の子だったのでは?と全員が思った。

 

とにかく、「その家族に返してあげて下さい」と人形を担当者に渡し、俺たちは帰路についた。

 

「これで霊的現象は無くなるのならいいんだけど、でもあの部屋にはもう戻れないな」、とポツポツと話しながら駅に向かっていた中で、長い沈黙が続いた後に唐突にAが口を開いた。

 

「あれは女の子じゃなかった・・・」

 

奇妙なことを言い出したのである。

 

「はっきりと見たわけではないが、感覚というか、そういうもので何となく分かる。あの人影は女の子じゃなかった」

 

そしてなんと、人影を見た俺以外の3人が、共に口を揃えてそう言ったのである。

 

折角、不動産屋から事情を聞いて、やっと理解しかけたところだったのに、それだと意味が分からないじゃないかと思った。

 

「じゃあ、女の子でなかったとしたら何だったと思うんだよ?」と3人に尋ねると、全員が同じ答えを言った。

 

「あれは人形だった」

 

(終)

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隣の部屋から聞こえてくる音

 

小学4年生の頃、うちの家族はアパートに住んでいた。

 

そのアパートの壁は薄く、隣の部屋の音がかなり聞こえた。

 

テレビの音や会話も聞こえるし、たまにはアンアンしている音まで聞こえる事もあった。

 

また逆に、友達と家で騒いでいると隣の部屋に住んでいる男が「うるさい!」と怒鳴り込んでくる事もあった。

 

この隣の男を仮にA男とする。

何故あの日に限って・・・

A男は今でいう”DQN”だ。

 

昔で言うならチンピラっぽい男で、定職に就いていないのか、昼間に見かける事が多かった。

 

いつも不機嫌そうで、夜になると隣から怒鳴り声や喧嘩している音が聞こえることも多かった。

 

俺はA男が嫌いだったし、うちの両親もA男が隣で騒ぐ度に嫌な顔をしていたのはよく覚えている。

 

(何度か理不尽に怒鳴られたり絡まれたりしていた)

 

ただ、うちの親父も血の気が多い方で、イライラが募ると隣に文句を言いに行く事があり、その度に怒鳴り合いになるからご近所には迷惑を掛けていたと思う。

 

ちなみに、A男が怒鳴っている相手は同居していた女性だった。

 

その女性をB子さんとする。

 

B子さんは当時の俺から見ると美人さんだった気がする。

 

A男とは、どういう関係だったのかは知らない。

 

夫婦だったのかも知れないし、恋人同士だったのかも知れない。

 

ただ、B子さんはA男から暴力を受けていたらしく、顔に青アザがあったり、どこか怪我していることも多かった。

 

一度だけ電話ボックスの中で座り込んでいるB子さんを見たことがあったけれど、その時は何というのか、雰囲気的に疲れ切っているというか、ボロボロになっている感じがして、子供だった俺には話しかけることが出来なかった。

 

そのアパートでの部屋の配置は、A男の部屋が角部屋で、その隣がうちだった。

 

なので、A男宅の騒音の被害に遭っていたのは主にうちだけだった。

 

他に、B子さんとうちの母はそこそこ交流があり、よく立ち話をしていた。

 

会話の内容の大半は、「あんな男と別れた方がいい。警察に相談しよう」と母が言えば、「そんなことをすると何されるか分からない」的な事をB子さんが言うので会話が堂々巡りしていたらしい。

 

そして、あの日の夜がやってきた。

 

珍しく隣から怒鳴り声も喧嘩する音も聞こえず、早めに仕事から帰った両親と夕飯を食べて一家団欒をしていたが、突然外からドアを”ドン!!”と強く開ける音と誰かが走り去る音が聞こえた。

 

何かあったのか?とうちの親父が外に出ていき、暫くすると血相を変えて戻って来るや、「救急車を呼べ!」と叫んだ。

 

その救急車で運ばれたのはB子さんで、走り去って行ったのはA男だった。

 

この時はまだ、何故そんな事態になったのかは分からない。

 

両親は警察から事情を聞いたみたいだったが、俺には何も話してはくれなかった。

 

ただ、A男の暴力でB子さんが非常に危険な状態に陥ってしまった事は、子供の俺にも見当がついた。

 

幸いなことに、B子さんは病院に搬送されて一命を取り留めた。

 

その後、母と一緒にB子さんの見舞いに行く事になった。

 

母はとてもB子さんを心配していた。

 

ところが・・・。

 

B子さんは俺達の姿を見るなり、半狂乱になって暴れ出した。

 

点滴を掛けていた棒は倒れ、医者や看護婦さんたちがB子さんを必死に抑えつけていた。

 

俺が、おそらく母も一番ショックを受けたのは、B子さんのその様子ではなく、叫んでいた言葉だった。

 

「助けてくれって言ったのに!」

「助けてくれって言ったのに!」

「助けてくれって言ったのに!」

・・・・・・・・・・

 

ひたすら、そう叫び続けていた。

 

俺達は看護婦さんに病室から追い出された。

 

よくよく考えれば、色々とオカシイところはあった。

 

何故、あの日に限って隣の音が全く聞こえなかったのか?

 

普段なら絶対に何か聞こえるはずなのに。

 

現に、A男がドアを開ける音は聞こえたのだから。

 

隣で喧嘩しているなら、すぐ分かるはずなのだ。

 

B子さんがそうやって助けを求めたなら、うちに聞こえないはずが絶対にないのだ。

 

なのに、どうしてあの日の夜は何も聞こえなかったのだ?

 

その後、暫くしてうちは引っ越した。

 

理由は明確で、隣に誰も居なくなったことで何も聞こえなくなった事が耐えられなくなり、子供の俺が突然泣き叫んだりするようになってしまったからだ。

 

多分、うちの親も精神的に限界だったのだとは思う。

 

後日談

大学に入学して夏休みに帰省した時、当時の記憶を確認したくてそのアパートまで行ったことがある。

 

しかし、アパートは改築されて当時の面影は全く無くなっていた。

 

・・・が、大家さんはまだまだ現役だったので、幸運な事に話を聞くことが出来た。

 

B子さんは退院した後、すぐにアパートから出て行ったらしい。

 

A男は警察に捕まったとの事だった。

 

そして、大家さんはこう続けた。

 

「あの部屋の壁に血が付いちゃってさ。お巡りさんが言うには、酷いことにA男がB子さんの頭を掴んで壁に何度か叩き付けたらしいのよ。おかげで部屋の壁紙を替えるのが大変でね」

 

俺は怖くて、どちら側の壁だったのかは訊けなかった。

 

正直、子供だった俺が記憶を改竄(かいざん)し、何も聞こえなかったと思い込もうとしているのかも知れない。

 

そうなると、うちの両親はB子さんの助けを無視した最低の人間だという事になるが・・・。

 

ただ、俺の記憶が正確で、あの夜に起こった事が本当ならば、どうしてB子さんにとって最悪のタイミングで何も聞こえなかったのか?

 

なんだか人知れない”悪意”を感じてしまっている。

 

(終)

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隣の部屋から聞こえてくる音

 

小学4年生の頃、うちの家族はアパートに住んでいた。

 

そのアパートの壁は薄く、隣の部屋の音がかなり聞こえた。

 

テレビの音や会話も聞こえるし、たまにはアンアンしている音まで聞こえる事もあった。

 

また逆に、友達と家で騒いでいると隣の部屋に住んでいる男が「うるさい!」と怒鳴り込んでくる事もあった。

 

この隣の男を仮にA男とする。

何故あの日に限って・・・

A男は今でいう”DQN”だ。

 

昔で言うならチンピラっぽい男で、定職に就いていないのか、昼間に見かける事が多かった。

 

いつも不機嫌そうで、夜になると隣から怒鳴り声や喧嘩している音が聞こえることも多かった。

 

俺はA男が嫌いだったし、うちの両親もA男が隣で騒ぐ度に嫌な顔をしていたのはよく覚えている。

 

(何度か理不尽に怒鳴られたり絡まれたりしていた)

 

ただ、うちの親父も血の気が多い方で、イライラが募ると隣に文句を言いに行く事があり、その度に怒鳴り合いになるからご近所には迷惑を掛けていたと思う。

 

ちなみに、A男が怒鳴っている相手は同居していた女性だった。

 

その女性をB子さんとする。

 

B子さんは当時の俺から見ると美人さんだった気がする。

 

A男とは、どういう関係だったのかは知らない。

 

夫婦だったのかも知れないし、恋人同士だったのかも知れない。

 

ただ、B子さんはA男から暴力を受けていたらしく、顔に青アザがあったり、どこか怪我していることも多かった。

 

一度だけ電話ボックスの中で座り込んでいるB子さんを見たことがあったけれど、その時は何というのか、雰囲気的に疲れ切っているというか、ボロボロになっている感じがして、子供だった俺には話しかけることが出来なかった。

 

そのアパートでの部屋の配置は、A男の部屋が角部屋で、その隣がうちだった。

 

なので、A男宅の騒音の被害に遭っていたのは主にうちだけだった。

 

他に、B子さんとうちの母はそこそこ交流があり、よく立ち話をしていた。

 

会話の内容の大半は、「あんな男と別れた方がいい。警察に相談しよう」と母が言えば、「そんなことをすると何されるか分からない」的な事をB子さんが言うので会話が堂々巡りしていたらしい。

 

そして、あの日の夜がやってきた。

 

珍しく隣から怒鳴り声も喧嘩する音も聞こえず、早めに仕事から帰った両親と夕飯を食べて一家団欒をしていたが、突然外からドアを”ドン!!”と強く開ける音と誰かが走り去る音が聞こえた。

 

何かあったのか?とうちの親父が外に出ていき、暫くすると血相を変えて戻って来るや、「救急車を呼べ!」と叫んだ。

 

その救急車で運ばれたのはB子さんで、走り去って行ったのはA男だった。

 

この時はまだ、何故そんな事態になったのかは分からない。

 

両親は警察から事情を聞いたみたいだったが、俺には何も話してはくれなかった。

 

ただ、A男の暴力でB子さんが非常に危険な状態に陥ってしまった事は、子供の俺にも見当がついた。

 

幸いなことに、B子さんは病院に搬送されて一命を取り留めた。

 

その後、母と一緒にB子さんの見舞いに行く事になった。

 

母はとてもB子さんを心配していた。

 

ところが・・・。

 

B子さんは俺達の姿を見るなり、半狂乱になって暴れ出した。

 

点滴を掛けていた棒は倒れ、医者や看護婦さんたちがB子さんを必死に抑えつけていた。

 

俺が、おそらく母も一番ショックを受けたのは、B子さんのその様子ではなく、叫んでいた言葉だった。

 

「助けてくれって言ったのに!」

「助けてくれって言ったのに!」

「助けてくれって言ったのに!」

・・・・・・・・・・

 

ひたすら、そう叫び続けていた。

 

俺達は看護婦さんに病室から追い出された。

 

よくよく考えれば、色々とオカシイところはあった。

 

何故、あの日に限って隣の音が全く聞こえなかったのか?

 

普段なら絶対に何か聞こえるはずなのに。

 

現に、A男がドアを開ける音は聞こえたのだから。

 

隣で喧嘩しているなら、すぐ分かるはずなのだ。

 

B子さんがそうやって助けを求めたなら、うちに聞こえないはずが絶対にないのだ。

 

なのに、どうしてあの日の夜は何も聞こえなかったのだ?

 

その後、暫くしてうちは引っ越した。

 

理由は明確で、隣に誰も居なくなったことで何も聞こえなくなった事が耐えられなくなり、子供の俺が突然泣き叫んだりするようになってしまったからだ。

 

多分、うちの親も精神的に限界だったのだとは思う。

 

後日談

大学に入学して夏休みに帰省した時、当時の記憶を確認したくてそのアパートまで行ったことがある。

 

しかし、アパートは改築されて当時の面影は全く無くなっていた。

 

・・・が、大家さんはまだまだ現役だったので、幸運な事に話を聞くことが出来た。

 

B子さんは退院した後、すぐにアパートから出て行ったらしい。

 

A男は警察に捕まったとの事だった。

 

そして、大家さんはこう続けた。

 

「あの部屋の壁に血が付いちゃってさ。お巡りさんが言うには、酷いことにA男がB子さんの頭を掴んで壁に何度か叩き付けたらしいのよ。おかげで部屋の壁紙を替えるのが大変でね」

 

俺は怖くて、どちら側の壁だったのかは訊けなかった。

 

正直、子供だった俺が記憶を改竄(かいざん)し、何も聞こえなかったと思い込もうとしているのかも知れない。

 

そうなると、うちの両親はB子さんの助けを無視した最低の人間だという事になるが・・・。

 

ただ、俺の記憶が正確で、あの夜に起こった事が本当ならば、どうしてB子さんにとって最悪のタイミングで何も聞こえなかったのか?

 

なんだか人知れない”悪意”を感じてしまっている。

 

(終)

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