失踪

路上に捨てられた物置

 

昔、家の近くに怖いおっちゃんが住んでいた。

 

怖いと言ってもヤクザとかではなく、ただ単に頑固なだけだったのだが。

 

友達と悪さをしているのがバレると、よく走って追いかけてきて怒られた。

何を見たのだろうか・・・

その日もイタズラをして逃げていたのだが、追いかけられている途中に小さな物置が捨ててあるのを発見した。

 

鍵も掛かっていなかったし、そろそろ息も切れていたので、そこに隠れることに。

 

しかしすぐバレたようで、おっちゃんは「そこに隠れたのは分かってるんだぞ!」と言いながら、物置の扉を開けた。

 

おっちゃんはニヤニヤしながら物置に首を突っ込み俺を探していたのだが、ある一点を見た途端、おっちゃんの顔色が変わった。

 

冷や汗を流し、ガクガクと震え出したかと思うと、訳の分からないことを叫びながら扉を閉めて逃げていった。

 

俺は何があったんだろうと思いながらも、物置から出て帰宅した。

 

その日以来、おっちゃんはほとんど外に出て来なくなった。

 

家の窓にはカーテンが閉められ、庭の世話もしていない。

 

ある日、俺がおっちゃんの家の前を通りがかった時、何かに怯えているような様子のおっちゃんが話しかけてきた。

 

「おい、俺がもしあの物置の所に行こうとしたら、何をしてもいいからとにかく止めてくれ!頼む!」

 

鬼気迫る様子に、俺はただ頷くしかなかった。

 

おっちゃんが失踪したのはそれから一ヶ月も経たないうちのことだった。

 

朝早く、あの物置があった運動場の方面にふらふらと歩いていくのが目撃されたのが最後だったらしい。

 

捜索願いが出されたにもかかわらず、おっちゃんは発見されなかった。

 

しかし、10年ほど経ったある日、おっちゃんはふらふらと戻ってきた。

 

顔は薄汚れ、髭は伸び放題だったが、服は失踪した当時のままだった。

 

おっちゃんは気の毒にそれ以来気が狂ってしまった為、10年近くどこに行っていたのかは分からなかった。

 

おっちゃんはあの物置で何を見たんだろう・・・。

 

(終)

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行方不明になった幼なじみに起きた事 2/2

前回までの話はこちら

俺の母が受話器を取り、「とりあえずウチの人(俺の父)に電話してみる」と言い出した。

 

すると、ノリオの母が「先に警察に電話して!」と泣きながら叫んだ。

 

躊躇する母から電話の子機を奪い、俺に「今の話しホントやね?」と念を押し、俺が頷くのを見て110番通報した。

 

ただ興奮状態だった為、ノリオの母は俺の家じゃなく自分の家の住所を告げてしまい、取りあえず3人でノリオの家に移動することになった。

 

母は、「やっぱりお父さんに連絡する」と言って先に行くよう言い、家に戻った。

 

途中、ノリオの母はチッと舌打ちし、「○○さんにも電話しなきゃ」と一人呟いていた。

 

パトカーがやって来て、パトカーの中で話を訊かれたが、結局は俺とノリオの母、遅れてきた母と3人が警察署に連れて行かれ、繰り返し話をすることになった。

 

その日に警察署から解放され、家に帰って今日あったことを父に説明した。

 

すると父曰く、あそこは部落だという。

 

他の部落と違って、ある意味保守的で独自の組合(互助会)を作っている。

 

昔はよく近隣の集落と揉め事を起こしていたという。

 

また、あのおっさんのことも知っていて、名前をSといい、ウチの家系も古いが、Sの家も古くからあるはず、と言っていた。

 

そんな話を聞いていると、家の電話が鳴った。

 

ノリオの母だった。

 

なんと失踪2日目にして、ノリオがあの池の近くにいるところを警察に保護されたというのだ。

 

もう夜も遅いということで、俺は家に残され、父と母がノリオの家に向かった。

 

次の日に両親から聞かされた話だと、ノリオはだいぶ疲れた様子だったらしく、事実1ヶ月間学校を休んだ。

 

その間、俺はノリオと面会させてもらえなかった。

 

その後も俺と母は3回ほど警察署に呼ばれたが、当然新しい証言などなく、繰り返し説明するだけだった。

 

その都度、何か分かったことはないかと訊いてみたが、子供に詳しい話をしてくれるはずはなかった。

 

ただ、母は少し教えてもらったらしく、警察が言うには、男の家からノリオの滞在した痕跡も、件のビデオテープも見つからなかったという。

 

1ヶ月後学校に復帰したノリオは、外見上は特に変わった様子もなかった。

 

ただ、クラスが違うから実際に目にしてはいないけれど、保健の授業で急に号泣し、教室を飛び出したことがあったらしい。

 

それが原因ではないだろうけれど、あの失踪事件以後、ノリオに対して心無い憶測や中傷があった。

 

結局、ノリオは6年に上がる前に転校することになった。

 

登校再開後すぐに、ノリオに直接あのビデオのナレーションについて訊いてみた。

 

あのおっさんは本当に無関係なのか、と。

 

するとノリオは猛烈に激高し、聞き取れないほどの罵声を浴びせられた。

 

そういうことがあり、今は時期が悪いと距離を置いていると、その後ほどなくしてノリオの母は離婚し、ノリオとタカシを連れて地区から出て行った。

 

結局、ノリオとはそれっきりになってしまった。

 

大学生になった俺は、部落の組合に話を聞きに行った。

 

「郷土史の中の部落差別を調べているのでその話を聞かせて欲しい」と電話すると、快く承諾してくれた。

 

電話で聞いた住所に行くと初老の男性の自宅で、その人が話をしてくれるという。

 

親切な応対に少し気が引けたが、ノリオの失踪にSという男は関わっていないのか、そもそもSとは何者で、今どこにいるのか、単刀直入に訊いてみた。

 

応対してくれた初老の組合員は困惑していたが、話してくれた。

 

ノリオくんの失踪とSさんは関係ない。

 

Sさんの転居と、Sさんに対する警察の不当な家宅捜査が同時期だったのは偶然。

 

Sさんは行政保護を受けていないため、組合が生活の手助けをしていた。

 

Sさんは高齢知的障害者。

 

転居先は遠くの施設だが、場所は教えられない。

 

Sさんはすでに亡くなっている。

 

・・・というもので、期待したものは何も得られなかった。

 

しかし、無礼を詫びた後の帰り際のことだった。

 

5年ほど前、組合事務所にノリオの母が怒鳴り込みに来たことがあり、宥めるのに大変だった、という話を聞かされた。

 

俺は今でも、ノリオの失踪にSという男が関わっていると思っている。

 

今、ノリオがどこにいるか分からない。

 

でも、俺の幼なじみのノリオは、あの東京五輪のドキュメンタリービデオのナレーションとして未だ捕らえられたままでいる、なんて事を最近よく考えてしまう。

 

(終)

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行方不明になった幼なじみに起きた事 1/2

 

小学5年生の頃、アメリカでワールドカップが開催された。

 

だからというわけじゃないけれど、幼なじみのノリオ(仮名)とよく近所の公園でサッカーをしていた。

 

ある日、「たまには別の公園でやろう」ということになり、自分たちの行動範囲外のまだ行ったことのない公園に行ってみることになった。

 

その公園は昼間でも薄暗くジメジメしていて、何となく神社の敷地を思い起こさせた。

 

俺もノリオも、その薄気味悪い雰囲気がたいそう気に入り、かなり遠いにもかかわらず自転車で度々遊びに行くようになった。

数日後に事件は起きる

何度目かのある日、ノリオとその2歳下の弟のタカシ(仮名)とその公園で遊んでいると、50歳くらいのおっさんが近寄ってきた。

 

髪は長く黒々としていたけれど、シワが深くて歯がボロボロで、よだれの臭いをさせていたのを覚えている。

 

そのおっさんと何を話したのかは忘れてしまったけれど、その日は3人でおっさんの家に行くことになった。

 

おっさんの家は公園のすぐ側で、通された部屋の窓からは、さっきまでいた公園が見えた。

 

部屋にはテレビがあり、ノリオが勝手にスイッチを入れてチャンネルを変えたりしていた。

 

俺はおっさんのことを、その雰囲気から知的障害者だと思っていた。

 

それはノリオも同じだった。

 

おっさんは、「ビデオがあるから見よう」と言い出した。

 

ノリオからリモコンを受け取ると、画面を切り替えた。

 

テープは予めセットしていたらしく、すぐに再生された。

 

それはかなり古いビデオで、内容は東京オリンピックにまつわるドキュメンタリーだった。

 

会場の建設風景や土地の区画整理、交通網の見直し作業などの様子をナレーションが説明していた。

 

なにぶん昔の事だから、そのビデオの断片しか覚えていないところが多い。

 

ただ競技やその結果も盛り込んだ内容のため、オリンピック終了後数年してから当時を振り返る形のドキュメンタリーだったのではないかと思う。

 

しかしそれであっても、古いビデオであるのは間違いないと思う。

 

最初、そのナレーションは普通の男性の声だったけれど、20分くらい経った頃に音が飛んで画面が暗転し、しばらくして画面は正常に戻るが、ナレーションが子供の声になっていた。

 

後から無理矢理に加工したものだとすぐに分かった。

 

子供の声も素人らしかった。

 

「これ、おっちゃんの子の声」

 

そうおっさんが嬉しそうに、俺やノリオを見て言う。

 

へ~とか、そうなんだとか、当たり障りのない返事をしたが、この古いドキュメンタリーを編集して自分の息子の声に変えるという無意味さと、その気色の悪さに鳥肌が立った。

 

ノリオもタカシもそう思ったのか、おっさんに話しかけられた顔が引きつっていた。

 

なおもビデオは続き、結局1時間半くらい見ていたと思う。

 

おっさんは、ビデオを熱心に見ているフリをしている俺たちの顔を、終始満足気に眺めていた。

 

もう辺りも暗くなったという事で、「親が心配している」などと言って、半ば逃げるように帰った。

 

帰り道、もうあの公園には行けないかもなぁ、と話した。

 

そして数日後、事件が起きた。

 

ノリオが夜の8時を過ぎても帰って来ないというのだ。

 

ノリオの母から心当たりはないかと訊かれ、真っ先にあの公園とおっさんが浮かんだが、あれ以来俺もノリオも公園には近づいていない。

 

その証拠に、失踪当日ノリオは、弟のタカシと近くの池にザリガニ釣りに行き、タカシに先に帰るように言ったきり行方不明になったらしい。

 

普通に考えれば水難事故だが、その池は天気次第ですぐに干上がるような水溜り程度の池で、当日もやはり膝下以下の水位しかなかったという。

 

即日、池さらいが行われたが、やはり何も見つからなかった。

 

俺は、“絶対にあのおっさんが関係している”と思ったが、大人たちには言い出せなかった。

 

もし関係が無かったら、あのおっさんは知的障害者だから差別だと大問題になる・・・なんてことを考えたからだ。

 

ノリオ失踪の次の日、意を決しておっさんの家に向かった。

 

あまりの緊張のため、どういう経緯でおっさんの家に上がれたか、実のところよく覚えていない。

 

しかし、とにかくおっさんの家に着いた俺は、目論んだ通り家に入ることに成功した。

 

そして予想はしていたが、やはり「ビデオを見よう」と言う。

 

満面の笑みでリモコンをいじっているおっさんに、「ノリオは来てない?」とさり気なさを装って訊いた。

 

「前に一緒に来てたヤツなんだけど・・・」

 

おっさんは心底無関心な顔で「知らない、来てない」と答え、テレビの画面が切り替わると、パッと笑顔になった。

 

そして、お待ちかねのものが始まったぞとばかりに画面を指差す。

 

やはり、前回と同じ薄気味悪いドキュメンタリーが始まり、またあの子供のナレーションを聞くのは憂鬱だなぁと思いながらビデオを見ていた。

 

そして、前回と同じ所で音が飛んだ。

 

画面が潰れ、暗転。

 

そろそろナレーションが切り替わると身構えていたにも関わらず、心臓が飛び出るかと思った。

 

この前に見た時の子供のナレーションが”ノリオの声”に変わっていたのだ。

 

意味不明の出来事にパニックになったが、ノリオの声が少し震えているようだったのが忘れられない。

 

とにかく早く逃げようと、震える腰を浮かした俺に、おっさんが嬉しそうな顔で「これおっちゃんの子」と言うのだ。

 

もう俺は限界を超え、小便を垂れ流しながら玄関まで走った。

 

走って自転車に飛び乗って、立ち漕ぎで逃げた。

 

最短距離で家に向かわず迂回して家を目指したのは、恐怖で混乱しつつも、あの男に家がバレるのはマズイと思ったからだ。

 

家に着くとすぐ母に事の顛末を話し、イマイチ懐疑的な顔をするのでノリオの家に電話したところ、ノリオの母がウチに飛んできた。

 

公園でおっさんに話しかけられ家に行ったこと、家でビデオを見せられたこと、そのビデオのナレーションがおっさんの子供であるらしいこと・・・

 

そして、今日見せられたビデオのナレーションがノリオの声に上書きされていたこと、ノリオの声を自分の息子と言ったこと、全てを説明し、ノリオはあの家にいるかも知れないと涙ながらに訴えた。

 

ノリオの母も興奮状態で泣きながら聞いてくれた。

 

(続く)行方不明になった幼なじみに起きた事 2/2

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不可解な点が多い失踪事件

 

大学生の時、短期間ですが探偵事務所でアルバイトをしたことがあります。

 

まだパソコンが普及している時代ではなかったので、私の仕事は顧客データの書類整理と浮気調査などでラブホテルなどに潜入する際に付いていく程度の仕事しかありませんでした。

 

バイト期間終了日が迫っていたある日、私はある調査資料を手にし、あまりの異様さに私を雇ってくれている雇い主である探偵(元刑事)の社長に「なんなんですか?この事件」と訊くと、彼は不思議な話をしてくれました。

 

以下、探偵でもある社長がしてくれた不思議な話です。

結局は何も分からなかった

彼の元にある日、年の頃30歳前後の若い女性が現れました。

 

長距離トラックの運転手をしている夫が、東北へ向かう途中のドライブインで行方不明になったので捜して欲しい、と。

 

失踪事件の調査はよくあること。

 

社長は早速、彼女の夫がいなくなったというそのドライブインへ調査へ向かいました。

 

そのドライブインの経営者は、80以上になるおばあちゃんでした。

 

彼女の夫が元々そこを経営していたらしいのですが、夫が亡くなった後、そこを引き継いだのだとか。

 

長距離トラックの運転手御用達のようなドライブインで、デコトラが何台も入るような大きなトラック専用の駐車場がいくつもあります。

 

運転手は、そこの屋根付で扉付きの駐車場に車を止め、おばあちゃんのところに「○○番の駐車場に入った。○時になったら起こしてください」と言いに行くと、おばあちゃんがその時間にお茶のサービスと共に起こしてくれる仕組みになっています。

 

そこの駐車場の一つで、依頼者の夫は忽然と姿を消したのでした。

 

トラックは駐車場にあり、運転していた本人だけがいなくなっていたのです。

 

探偵である社長は、すぐ「おかしい」と思ったそうです。

 

場所は高速道路の真中。

 

トラック無しで、徒歩で一体どこへ行ったのか。

 

訝しむ彼に、おばあちゃんが「ああ・・・でもこれ関係あるのかしら?」と口を開きました。

 

「いやね、この件とはまるきり関係ないと思うんだけど、亡くなった主人から絶対に開けてはいけないって言われている駐車場があるのよ。だから普段は鍵を掛けて入れないようにしていたんだけど・・・」

 

別のトラックの運転手を起こしに行こうとしたドライブインのおばあちゃんは、その日、鍵を掛けて開かないようにしてある駐車場の扉が開いているのを不信に思ったそうです。

 

すると、そこには見慣れぬトラックが。

 

そのトラックは、自分の所に「○時に起こしてくれ」と何も言って来なかったトラックだったと言います。

 

それに、鍵が開くわけがない。

 

他の運転手にも訊いてみたところ、そのトラックが入る数時間前は確かに閉まっていたと証言がありました。

 

では、なぜ開いていたのか?

 

運転手はどこへ行ったのか?

 

探偵の社長は引き続き調査を行うことにしました。

 

元刑事という警察のコネクションも利用して。

 

数日後、失踪したトラックの運転手は見つかりました。

 

残念なことに亡くなっていました。

 

瀬戸内海の満潮になると沈没してしまう小さな隆起した岩の上で。

 

地元の漁師が見つけたそうです。

 

ターゲットが死体で見つかった以上、もう探偵のする仕事は終わりです。

 

しかし、亡くなった彼はたった数日で、しかも足も無いのに東北から瀬戸内海へどうやって移動したのか?

 

なぜ突然失踪したのか?

 

原因をどうしても追求したくなり、元刑事の肩書きを利用し、警察仲間に遺体の状況を問い合わせました。

 

すると、遺体は口から食道から胃から腸から、びっしりと貝類が未消化の状態で詰まっていたという情報を得ることが出来ました。

 

発見時、妊婦のように腹が膨らんでいたので、発見した漁師は水死体だと思ったそうです。

 

しかし、死因は溺死ではありません。

 

監察医の診断は「ショック死」でした。

 

亡くなった彼の体にびっしりと詰まっていた夥(おびただ)しい量の貝類はなんだったのでしょうか?

 

なぜ彼は、東北のドライブインから瀬戸内海の岩の上に、たった数日で移動が出来たのでしょうか?

 

さらにもうひとつ不可解な点がありました。

 

彼の体中には「無数の引っ掻き傷」が付いていたそうです。

 

それは、人間もしくは爪を持つ哺乳類に付けられたらしい傷。

 

結局は何も分からずじまいで、社長は消化不良の調査を終えて東京に帰って来たそうです。

 

(終)

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先輩がいつも練習している部屋で

 

大学で実際にあった洒落にならない話。

 

俺の通っている大学は、山のてっぺんにある。

 

町から相当隔離された場所にあり、最寄のコンビニですらジグザグの山道を通って車で片道10分はかかってしまう。

 

そんな環境であるため、サークル活動や研究室などの特殊な用事でもない限り、遅くまで大学に居残る学生はほとんどいない。

 

しかし、10棟程度に分かれている大学校舎の中の一つに『音楽棟』という建物があり、そこでは夜遅くまで学生がヴァイオリンやピアノ等の楽器を練習している。

 

音楽棟には50以上の個室の全てにピアノが一台ずつ入っているのだが、学生はそれぞれ自分なりにお気に入りの個室があるようで・・・。

あの女はどこの誰なのか

その日の夜、俺は音楽棟で楽器の練習をしていた。

 

時刻は21時半頃だった。

 

終バスが22時なので、そのくらいの時間になると学生の数はかなり減っている。

 

山中であるため、終バスに乗り遅れると下山は困難を極めるのだ。

 

俺もそろそろ帰るかと思ったその時、やや離れた場所から「ドカッ!」と何かがぶつかるような音がした。

 

誰かが楽器でも落としたのだろうかと思ったが、あまり気にせず個室を出ようとすると、またもや「ドカンッ!」という音がした。

 

さてはアレだなと思った。

 

音楽棟はだいぶ老朽化しているため、壊れているドアがいくつかある。

 

ある程度ちゃんとした校舎を持つ学校に通う学生には信じ難いかもしれないが、この大学では運が悪いと自力で個室の中から出られなくなることもしばしば起こるのだ。

 

部屋の中からドアを開けようとしている音に違いない。

 

前にも閉じ込められた友人を救出した経験があったからこそ確信があった。

 

すぐさま音のした個室の方へ行って、個室にある窓から中を覗いてみる。

 

案の定、ドアを何とか開けようとしている学生らしき姿があった。

 

「今開けますよ~」と一声かけてから、ドアノブをやや強引に捻って開けた。

 

「ありがとうございます。出ようとしたらドアが開かなくなっちゃって・・・」

 

初めて見る顔だった。

 

音楽棟に夜遅くまで残って練習している人間は大体把握できているつもりだったが、目の前にいるのは全く知らない女の子だった。

 

他大生だろうか・・・?

 

原則として学外の人間は個室を使っていけない事になっているが、まぁいいかと思い、「練習お疲れ様です」と言った。

 

その時、本当に一瞬の事だった。

 

その女の子の表情が歪み、恐ろしい顔つきになったのだ。

 

そして、さっきの顔が嘘だったように一瞬で元の表情に戻った。

 

「ここ、私のお気に入りの部屋なんです」

 

「え?そうなんですか?」

 

俺は喋りながら変な違和感と緊張を感じていた。

 

何かこの女、おかしい・・・。

 

今の顔は何だったんだ?

 

いや、それ以前にもっとおかしな事がある。

 

「ずっと使っていたんですけど、いきなり開かなくなったからびっくりして・・・」

 

そんな事は聞いていない。

 

お気に入り?

 

誰の・・・?

 

「本当にありがとうございました」

 

そう言ってその女はスタスタと歩いて行ってしまった。

 

俺は結局、何も聞けなかった。

 

この個室の番号は『31』。

 

俺のよく知る先輩がいつも練習している部屋だった。

 

いつも夜遅くまで練習している努力家で熱心な先輩。

 

その先輩が居なくて、知らない女がいた。

 

俺はどうしても気になって、すぐに携帯電話で先輩に聞いてみることにした。

 

意外にもすぐに繋がった。

 

どうやら今までずっと学外で過ごしていたとの事だった。

 

授業は1コマから入っていたそうだが、どうも気が進まなくて・・・と曖昧な返事だった。

 

そこで練習室の女の事を言ってみた。

 

先輩はしばらく絶句していたが、重い口調で話してくれた。

 

「誰にも言うなよ・・・。昨日、脅迫を受けたんだ」

 

話によると、昨日の夜、アパートで一人暮らしの先輩が家に帰宅すると、郵便受けに大量の紙が詰まっていた。

 

何十枚もの紙の全てに、『学校に来るな』と一言、印刷されていた。

 

気味が悪くなって学校には行かず、一日中、町に下りて過ごしていたそうだ。

 

警察に届けようと思ったが、思いとどまっていたらしい。

 

「あの女って誰なんですか?心当たりなどは?」

 

「いや、あるわけない。ないけど、お前の話を聞いて余計に怖くなった。とりあえず何とかしようと思う」

 

その会話を最後に、俺は今に至るまで先輩に会っていない。

 

アパートは空っぽ、実家への連絡すら1年以上もない状態らしい。

 

完全に失踪してしまった。

 

もちろん、あの女ともあれ以来、会っていない。

 

先輩の友達が親御さんに何度か尋ねてみたらしいが、「まだ帰って来てない」との事。

 

アパートは家賃が無駄だからと既に手放していて、当てにしていないが捜索願いも提出済みらしい。

 

先輩は音楽系の2つのサークルを掛け持ちでやっていて、学外での人間関係の幅が広かったから、周囲の人達も不審に思っていた。

 

あの時の女がどこの誰で、個室で一体何をしていたのか、今でも分からない。

 

(終)

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理想の女性と出逢ったはずが

 

少し長くなるのですが聞いてください。

 

5年前のことですが、未だに訳が分からなくて僕のトラウマになっている出来事です。

 

話は6年前にさかのぼります。

 

SNSのミクシィで、とある女性と仲良くなりました。

 

仮にA子(25歳)とします。

 

メッセージをやり取りし、何度か会うにつれ、僕は彼女を好きになり付き合うことになったのです。

彼女は僕を騙していた?

僕は東京暮らしで、彼女は大阪暮らし。

 

遠距離恋愛な上、美容師のため連休が無い僕に代わって彼女が毎週末に東京へ来てくれました。

 

小さくて、可愛くて、おっぱいが大きくて、料理が上手で、性格が良くて、上品で、非の打ち所がありません。

 

信じられないくらい僕の理想通りの女性で、僕は彼女に夢中でした。

 

今思えば、それは不自然なくらい完璧だったと思います。

 

付き合って1年近くが経った頃、僕は結婚を意識し始め、お互いの両親に会うことにしました。

 

うちの両親は彼女を気に入ってくれました。

 

でも彼女は良い所のお嬢様なので、貧乏美容師の僕との結婚を反対されるのでは・・・。

 

そう覚悟していたのですが、ご両親ともお金持ちの嫌な感じが全然無く、とても親切で結婚にもとても喜んでくれました。

 

途中、部活から帰ってきた年の離れた弟くんは無口で素っ気なかったけれど、興味の無い僕でも知っているくらいの超有名高校の野球部在籍だけあってとても礼儀正しかったです。

 

ドラマに出てくるような幸せ家族で、こんな仲の良いご両親に育てられたからこんな良い子が育ったんだな、とますます彼女が好きになりました。

 

それからも、毎週末に僕の家に彼女がやってくる生活は変わらず、仲良く過ごしていたある日の日曜日のことでした。

 

早朝、彼女が朝食を作る匂いと音で目が覚めた。

 

幸せだなあ~とまどろんでいると、寝室のドアが勢いよく開けられました。

 

ご飯が出来たのかと思いキッチンに行くと、彼女の様子がなんだか違う・・・。

 

「おはよう」と声を掛けても無視。

 

彼女はヤキモチ焼きなところがあるので、何か要らぬ心配をして怒ることがよくありました。

 

なので今日もそれかと思い、気にせず話し掛けていたのですが、やっぱり無視。

 

いつもなら「大好きだよ」と言うとすぐ機嫌が直るのにな・・・昨日何かしたかな・・・と考えていると、どこからともなく焦げ臭いにおいが。

 

どうやらフライパンをから煎りしている様子。

 

「火、点けっ放しだよ!」と言うや否や、彼女は「思い知ったか!!」と叫び、熱々のフライパンで僕の頭をガンッと殴った。

 

突然のことに呆然・・・。

 

そんな僕を尻目に、彼女は荷物を持って出て行ってしまった。

 

それ以降、彼女と音信不通になりました。

 

普通に考えれば、前日に何か怒らせるようなことをしたんだろうと思うのですが、不可思議な事が起こり始めたのはここからなのです。

 

僕は、どうしても彼女とちゃんと話したくて彼女の居場所を探しました。

 

携帯は解約されていたので、まず会社に電話をしました。

 

すると電話口の出た人に、「そのような人は働いておりませんが・・・」と言われる。

 

次に彼女のマンションへ行くも、もぬけの殻。

 

彼女の実家へ行くも、誰も居ない。

 

表札も外されていて、住んでいる形跡が無い。

 

先日実家へお邪魔した時に彼女のお父さんが、「この家は私の曾祖父から使っているものでね。大きいだけが取り柄のボロ屋敷だよ。でも愛着があって引っ越す気も建て替える気にもなれなくてね・・・」と言っていたので、手放すなんてちょっと考えられない。

 

もしかしたら事件に巻き込まれた?と色々考えていたら、お父さんに名刺を貰ったのを思い出した。

 

『京都府某区役所の職員』ということだった。

 

すぐさま区役所に直行。

 

しかし、「そんな人は働いていない」と言われる。

 

名刺も見せたのですが、「これはうちの名刺じゃないですね。偽物です」とまで言われる始末。

 

もう何が何だか分からない。

 

彼女は何者だ?

 

彼女の家族は何者だ?

 

残るは強豪校で1年生ながら野球部レギュラーを務めているという弟くんだ。

 

ツテなんかないけれど、とりあえずその学校へ行った。

 

着いて愕然とする。

 

弟くんと初めて会った時、弟くんは部活帰りで制服だったけれど、その時の制服と今目の前にある学校の制服とが全然違う。

 

学校名を間違えたということはない。

 

弟くんのスポーツバッグには『○○高校野球部』と書いていたし、試合中の写真を見せてもらった時もユニフォームに『○○高校』と書いてあった。

 

もう訳が分かりません。

 

彼女は僕を騙していた?

 

何のために?

 

家族ぐるみで?

 

そもそも、あれは本当の家族だったのか?

 

突然現れた理想通りの彼女もとても不自然に思えてくるし、ドラマみたいな絵に描いたような幸せ家族も不自然に思えてきた。

 

最後の彼女の言葉、「思い知ったか!!」の意味も分かりません。

 

彼女や彼女の家族と過ごした時間を思い出すと鳥肌が立ちます。

 

何か得体の知れないモノと一緒に居ていたようで・・・。

 

彼女は初めから居なくて僕の妄想だったのでは・・・とも思ったのですが、僕の両親が「A子ちゃんとの結婚いつなの?」と訊いてきたり、うちのお店のスタッフからは、「最近美人の彼女さんカットしに来ないですね」と言われる度に妄想の方が良かったとつくづく思います。

 

この一連の出来事に説明が付けば、自分がメンヘラだったというオチでもなんでもいいのです。

 

「ああ、これはこういう事だよ♪」と誰かが納得のいく説明をしてくれるまで、僕はずっとモヤモヤしたままです。

 

(終)

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