怖 77巻

お盆やからそんな事もあるやろうけど

 

俺が高校二年生の時の話。

 

夏休みに入った途端、髪を染めて毎日をエンジョイしていた。

 

そして、お盆の時期に母の実家へ行くことになった。

 

場所は九州宮崎県の某所。

 

母いわく、かなりの田舎との事。

 

でもちょうど暇を持て余した時期だったので、家族皆で行くことになった。

 

家族構成は父、母、俺、妹、弟、妹の六人。

 

父が運転する車で出掛けた。

こんな体験をした

長旅の為に途中で酔ってしまったりと色々あったが、本州と九州を繋ぐ関門海峡で休憩と小腹を満たしてから、無事に宮崎県に突入。

 

夜に出発した為、宮崎の市街地の都会を抜けた頃には青空が広がり、夏独特の湿度と暑さが充満していた。

 

野を越え山を越え、民家もポツポツになって行く中、「あそこに見える山の近く」と母が言う。

 

まだまだ遠い。

 

地元界隈では『神様に一番近い場所』と呼ばれ、わりとそんな話もある町との事で、心霊関係が大好きな俺はワクワクしていた。

 

車で寝てしまっているうち、起きたら婆ちゃんの家に着いていた。

 

婆ちゃんの家は、よくある昔ながらの日本家屋。

 

植木に囲まれた中に庭が広がり、10メートルほど歩くと玄関。

 

到着当日は疲れていたのもあり、遊びにも行かずに皆で宴会に。

 

親戚の人も来て、どんちゃん騒ぎだった。

 

みんな酔っ払ってきた頃、焼酎を割る氷が無くなったので俺が買い出しへ行く事になった。

 

しかし、外は街灯が無く真っ暗。

 

足が無いと言うと、「それなら原付で行け」と。(飲酒ですやん・・・)

 

それにヘルメットも無いと言えば、「代わりにタオル巻いて行け」と。

 

さすがは田舎というのか、全く人に会わずにコンビニで買い物をして戻った。

 

その時に通ったトンネルが、とても暗かったのを覚えている。

 

原付のライトがあるのに、暗闇に消されている感じ。

 

そんなこんなで宴会も終わり、神棚が不気味な大広間で皆で川の字になって寝た。

 

翌朝、朝飯を食べている時に、近くに川があると教えてもらい泳ぎに行くことに。

 

歩いて10分ほどだったので、水着に着替えてから家族で向かった。

 

林道を歩いてると、川の音が聞こえる。

 

夏の蒸し暑さが全く無く、木漏れ日が気持ち良いぐらい。

 

途中には下りの道がちゃんとあり、石の敷き詰まった河原に到着。

 

そんなに深くないところで弟達と遊んでいた。

 

危険は無いと思ったのか、それとも飽きたのか、父と母が上流に行くとの事。

 

「ちゃんと弟達を見とけよ」と釘を刺され、面倒臭いと思いながらも涼しげな時間を感じていた。

 

ちなみに、弟達は3人共まだ小学生。

 

川を挟んだ向こう側は林になっていて、ちょうど川の真ん中に日差しが入って気持ち良かった為、そこに俺は佇んでいた。

 

足首ぐらいまで水に浸かって。

 

すると突然、「おぎゃぁおぎゃぁ」と赤ちゃんの鳴き声が聞こえた。

 

それも二回だけ。

 

川の真ん中にいたので、左右の林のどっちから聞こえたか分からなかった。

 

少しビビったせいか、川の水が異様に冷たく感じて川からあがった。

 

足首まで浸かっていたけれど、まるで氷水につけた後みたいに冷たく感じた。

 

その時、ちょうどタイミング良く両親が戻ってきたので、「飯食いに帰るかー」と帰宅。

 

夜はまた、例の如く宴会にて泥酔で就寝。

 

その日、母と布団が隣だったので、横になりながら色々話していた。

 

地元に住んでいた頃の話、親戚の話、地元の白蛇の神様の話。

 

ちょうど白蛇の神様の話をし始めた時に、足元のぼんぼりが突然に点いた。

 

足元には神棚があり、その明かりが左は消えていて右だけが点いていたが、その左側が点いた。

 

「なんや、接触不良か?」

 

夜中にビビらせるなよ、と思いながらも白蛇様の話を聞く。

 

話し終わったら次は右側が消えた。

 

神棚の明かりは話す前と逆になった。

 

「お盆やし、神様が通って行ったんやな」と母。

 

そういうもんか、と妙に納得して寝た。

 

その夜、酒を飲み過ぎたせいか夜中に目が覚めた。

 

最初は天井が明るく見えたので「朝かな?」と思ったけれど、よく見るとぼんぼりだった。

 

「反対向くとかどれだけ寝相悪いねん・・・」と自分で思いながらも、戻ろうと起き上がった時、目の前に丸まった赤ちゃんが居た。

 

確か、裸だったと思う。

 

その時に初めて、「人間は本当にびっくりしたら二度見するんや」と思ったけれど、二度見したらお供え物のスイカに変わっていた。

 

昼の川での鳴き声を思い出したが、母の「お盆やからな」とい言葉を聞いていたおかげで、また変に納得して寝た。

 

翌日、帰る日。

 

滅多に会わない孫達との別れに、淋しそうな婆ちゃん達に後ろ髪惹かれながらも車が出発。

 

「楽しかったなあ」なんて言いながら、弟達はすぐに爆睡した。

 

途中、とても暗かったトンネルを通った時、足首が冷たくなった。

 

それも左側だけ。

 

「捻挫かな?」と考えていたけれど、ずっと冷たいまま。

 

堪らず母に「足首冷たい」と言う。

 

「じゃあタオル巻いとき。すぐ治るやろうから」との事。

 

俺は我慢したまま寝ることにした。

 

そして、関門海峡でまた飯を食って本州に渡り切った頃、足首が冷たく無くなっている事に気付く。

 

母に言うと、「なんか変なもん憑いてても、地元からは離れへんわ(笑)」と軽くあしらわれた。

 

そして帰宅翌日、「無事着いたよ」と婆ちゃん達に電話した。

 

俺が話す時に、「こんな体験した」と赤ちゃんの話をしたら、婆ちゃんが教えてくれた。

 

あの川は昔『子洗い場』とも呼ばれていて、洗濯や風呂とかに使っていたという。

 

水がとても綺麗から。

 

「その時に流れてしまった赤ちゃんが、あんたの足首に掴まってたんやろなあ」との事。

 

そして、「気づいてくれないから目の前にも出たんじゃないか」と。

 

それを聞いて、なるほど・・・と納得。

 

ちょっと切ない気持ちになりながらも冥福を祈った。

 

でもやっぱり婆ちゃんも最後に、「お盆やからそんな事もあるやろうけど、またおいでね」と言った。

 

(終)

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中学の時にあった恐怖体験 2/2

前回までの話はこちら

彼女が言うには、それから立て続けに怖い体験をするようになったので、それを猫の霊の仕業だと考え、それらしいような噂が立っていた私に猫の霊を押し付けようとしたのだそうです。

 

そして、「酷いことをしたのは謝るから一緒にお祓いに来てほしい」と言われました。

 

自分だけが受けるべき呪いが、私にも降りかかっていたら申し訳ないからと。

 

私は気になって、「怖い体験って?」と訊いてしまいました。

 

香川さんは怯えたように私にくっ付きながら話してくれました。

香川さんの身に起きた恐怖体験

「ミイの首が足にぶつかるの。歩いてて何か蹴ったなと思って下を見ると、それがミイの頭なの。見ないようにしてどんどん歩いても、何度も何度も蹴る。踏んだりして段々その形が変わっていくのが分かる」

 

「寝てる時、暖かいものが布団に入ってくるの。ああミイだな、と思って抱きしめるんだけど、あれ、ミイって私が殺したのに・・・って気づくでしょ。そうするといきなりそれが冷たくなってベチョベチョした感触になる。驚いて飛び起きたら、もういないの」

 

彼女の話は大体こんな感じでした。

 

聞いているだけで寒気がしたのを覚えています。

 

それで、「私はそんなこと一切無かったよ。香川さんはまだそんな風なの?」と、また訊くと、彼女は「腕に毛が生えてきた」と言います。

 

「猫の毛なの。だんだん増えてくる。それで、ひげも生えてきた。昨日からは、耳も生えてきたの!見てよ、この耳!見てよ!」

 

香川さんが興奮して帽子を外したので、私は半信半疑で立ち上がって彼女の頭を見てみました。

 

が、猫の耳なんてもちろんどこにもありません。

 

「無いよ」と告げると、彼女は怒ったように「あるはずだ!あるはずだ!」と怒鳴るので、私は気味悪くなりました。

 

「それじゃあ、ひげも見せてみてよ」と、湿布を剥がそうとすると、香川さんは打って変わって弱気になり、「お願い、それはやめて」と、メソメソしながら拒みました。

 

私はそこですっかり、『香川さんはおかしくなってしまったんだ』という結論に至って、「夜も遅いからもう帰ろう」と言いました。

 

香川さんが「お祓いの件は約束してほしい」と言うので、「いいよ、一緒に行こうね」と慰めてあげました。

 

すると突然、香川さんが頬に唇を付けてきて、目元を舐められました。

 

正直気持ち悪かったのですが、もう私も疲れ切っていたので軽く振り払って二人で歩き出しました。

 

香川さんはまた帽子を目深に被っていました。

 

しばらく歩いていると、香川さんがいきなり立ち止まりました。

 

数メートル先に行っても付いて来ないので、振り向いて名前を呼ぶと、じっと俯いたままでした。

 

そして、モジモジと足を動かすような動作をしました。

 

「しつこい!」と、突然香川さんが怒鳴りました。

 

下を向いたままで。

 

私は何か悪いことを言ったかと思い、彼女に謝ろうとしました。

 

「ミイ!しつこい!」

 

ミイというのは香川さんの飼い猫の名前だったのですが、香川さんはしきりに「ミイ!しつこい!」とばかり叫んで足を小さく動かしています。

 

それが何かを突くような仕草だと気づいて、『もしかして香川さんには今あそこにミイの頭が見えているんだろうか』と思いに至りました。

 

無論、地面には何も落ちていません。

 

「香川さん、そこには何もないよ?」と言っても香川さんは興奮したままで、「しつこい、しつこい、しつこい!!!」と大きく足を振り、その“何か”を蹴るような動作をしました。

 

と、その時・・・ガン!と、何かが私の足に勢いよくぶつかりました。

 

気のせいなどでは済まされない感触で、何か小ぶりのボール大のものがぶつかって跳ね返っていったのが分かりました。

 

香川さんは顔を上げていて、私の足にぶつかって跳ね返ったものが転がっていっただろう辺りを目で追っていました。

 

しかし、やっぱりそこには何も見えません。

 

何が起こったのか分からないでいるうちに、香川さんはハッとした感じで私を見ると、「ごめんね」と真っ青な顔で言いました。

 

直後、私は信じられないほどの恐怖にかられて、彼女を置いて家まで逃げ帰りました。

 

家では、遅くなった私を家族が心配して待っていました。

 

母親に「顔色が悪い」と言われてすぐ風呂に入らされ、一人で湯につかった後、洗い場でふくらはぎを見ると大きな青アザが出来ていました。

 

怖くてすぐ布団に入ったのですが、急に熱を出して家族に看病されました。

 

次の日、熱はすぐに下がったのですが、具合が悪いと言って学校を休みました。

 

休日を挟んで月曜日。

 

学校へ行くと、クラスの子が三人ほど私に謝ってきました。

 

面食らっていると、なんでも私が初めて学校を休んだので、無視やいじめの度が過ぎたのだと思い込んだようです。

 

その子たちを見て、結局クラスのほとんど全員が私に謝罪してきました。

 

香川さんは来ていませんでした。

 

それからも二週間ほど香川さんの姿を見ることはなく、学校にも登校しないまま、いつの間にか席も無くなったようでした。

 

お祓いどうこうの話も、そのまま無くなりました。

 

ただ、足に出来た青アザは、その後も二年間ほど残り、それを見る度に私はミイの話を思い出して気持ちが悪くなりました。

 

猫に関する恐怖体験は幸いにも特に無かったこと、中学を卒業する頃にはアザもすっかり綺麗に消えたことが救いでした。

 

香川さんのおかげと言っては何ですが、それからは私も学校で友達を作れるようになりました。

 

彼女にこれ以上関わりたいとは思わなかったので、香川さんがその後どうなったかは知りません。

 

(終)

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中学の時にあった恐怖体験 1/2

 

最近、久しぶりに霊体験のようなものをして、中学生の頃にあった怖い体験を思い出しました。

 

何年も前、家から近い私立の女子校に進学しました。

 

中学一年生だった時、小学校が一緒だった子がいなかったのに加え、入学してすぐに変な噂を流されてしまって、私はクラスで孤立していました。

 

噂の内容は詳しくは教えてもらえなかったのですが、「猫を生きたまま食べてるのを見た」だとか、それは酷い嘘ばかりでした。

 

中学に入ったばかりの女の子といえど、これを本気で信じていたとは思えないので、やっぱりちょうどいい憂さ晴らしの対象にされていたのかなとも思います。

 

噂が流行だしたのが四月の終りで、それまで少し仲良くしてくれていた子とも話してもらえなくなり、寂しい思いをすることひと月と少し。

 

六月に入ってから、二つ隣のクラスの子から呼び出されて空き教室で話したのですが、彼女が「本当に猫を殺したのか?」などと訊いてきました。

 

私が「違う」と言うと、妙な頼み事をしてきたのです。

妙な頼み事とは

なんでも、彼女(香川さん・仮名)の飼い猫がこの辺りで行方不明になっていたそうですが、つい最近死体になって見つかったのを「あなたが殺したことにして欲しい」と言うのです。

 

どうしてそんなことを言われるのか分からないし、断ったのですが、香川さんは執拗にそれを頼んできて、土下座までした上で、なおも私が拒否すると顔をぶってきました。

 

理由を訊いても答えてくれません。

 

私はその頃シカトされるストレスなどから体調不良を起こし、ガリガリの上に背も低かったので全く抵抗が出来ませんでした。

 

香川さんはなんだか鬼気迫っていて、私は怖くて「香川さんの言う通りにする」と言ってしまいました。

 

これから無実の罪を着せられてもっと虐められるんだろうかと思った私は泣き出したのですが、香川さんはとても嬉しそうにして私の手を握り、「じゃあ、私がミイを殺しました。香川さんでなく、ミイを殺したのは私です、と言って」と要求してきました。

 

変だなとは思ったのですが、言うまで帰してくれなさそうだったので、その通りに言いました。

 

香川さんは私の手を放し、何度も「ありがとう、ありがとう」と言って私を玄関まで送ってくれました。

 

次の日、私はそれでも学校に来ていたのですが、新しく噂が流れるようなことはなく、私はただシカトされていました。

 

そのまま一週間くらいが経ちました。

 

ある日の休み時間、「誰かが呼んでる」とクラスの子に話しかけられて、おやっと思いました。

 

わざわざ私にそんなことを教えてくれるなんて、この子は私の味方なのかな、と嬉しく思ったのです。

 

が、ふと見回してみると、いつの間にかクラス中のほとんど全員が静かになり、私と戸口の方を見ていました。

 

戸口に目を向けると、そこには香川さんが居て、「ちょっと来て」と言うのですがその姿が異常だったのです。

 

香川さんは両腕を包帯でグルグル巻きにし、両頬に大きな湿布を貼っていました。

 

そして、学校の中だというのに帽子を被っていたのです。

 

先生に何か言われないのか不思議なくらいの格好でした。

 

香川さんは泣きそうな顔で、「放課後に学校の近くのある場所に来てほしい」と言って帰っていきました。

 

私は彼女が居なくなってからその日は塾だったことに気づいたので、彼女のクラスを訪ねました。

 

先生に、「香川さんはここ三日ほど登校していない」と言われてゾッとしました。

 

私に会うために学校まで来たのかと思うと、彼女に呼び出されたのが急に怖くなり、「塾もあるから仕方ない」と自分に言い聞かせて約束をすっぽかしました。

 

なんとなく不安なまま過ごした私は、塾からの帰り道、ヘトヘトで家まで帰る途中に誰かが道にうずくまっているのに気づきました。

 

夜十時近くだったと思うのですが、それは香川さんでした。

 

私がびっくりして声をかけると、「良かった。来てくれて良かった・・・」と泣いて喜びます。

 

私はそこで気づいたのですが、そこはちょうど香川さんに指定されていた場所で、もしかしなくともずっと待っていたのかと思って可哀相になってしまいました。

 

香川さんはまだ包帯や湿布、それに帽子を身につけていて、とりあえず公園まで二人で歩いて座ると、泣きながら喋り出しました。

 

彼女はまず、飼い猫に小さなことでついムシャクシャして二週間ほど前に殺してしまったのだと告白しました。

 

私が殺したことにして欲しいと頼んできた例の猫は、実は彼女自身が絞め殺していたのです。

 

(続く)中学の時にあった恐怖体験 2/2

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花魁淵と呼ばれる滝にて

 

山梨県甲州市(旧・塩山市)の奥地にある『花魁淵』に来ていた。

 

時刻は深夜の1時過ぎ。

 

まだ少し昼の暑さが残っている。

 

この場所は、関東の西では有名な心霊スポットだ。

 

戦国時代、武田信玄の軍資金源となった『黒川の金山』が近くにある。

 

武田氏滅亡の折、この金山の秘密を守るために、50人以上いた近くの遊郭の花魁を集め、張り出して設置した舞台もろとも川に丸ごと沈めて皆殺しにしたという場所だ。

 

最後まで読むと祟られるという碑看板の近くに車を止めて降りた。

あいつは女に祟る

今回のメンバーは、いつもの通り嬉々としてツアーを取り纏めた守山くんを筆頭に、男3人(守山・僕・Aくん)と女2人(僕の彼女・Aくんの彼女Bさん)の編成。

 

言葉少なに、花魁の霊を鎮めるお堂までの道を下る。

 

周りの崖がどんどん高くなる。

 

中ほどまで来た時、何かの囁く声が耳元で一瞬聞こえた。

 

不安に思って、辺りを見回す。

 

見ると、みんなも同様だった。

 

みんなにも聞こえていたのか。

 

いや、気付いたのは男3人だけだった。

 

女には聞こえなかったのか?

 

何故だ?

 

「下見ろ、下!ライト消せ!」

 

守山くんが僕を突いて囁いた。

 

懐中電灯を消して、こそこそとしゃがみ込み、藪の中から崖の下を覗き込む。

 

深い崖の底には真っ黒な川が流れていて、仄暗(ほのぐら)い淵を作っている。

 

しかし、ほぼ真上にある月明かりのおかげで、角度によってはテラテラと光る水面もあった。

 

ここからの距離は50メートルくらいか。

 

水面に人影が見えた。

 

岩じゃない。

 

さっき崖の上から見た時、そこには何も無かった。

 

その人影は、遠目には分かり難いが、髪は長く解け、襦袢を着ている様だ。

 

※襦袢(ジバン)

和服の下に着る肌着のこと。

 

女だ。

 

目が慣れてきた。

 

向こうをむいて俯いているのが分かる。

 

顔は濡れ髪にも隠れて良く見えない。

 

それはそのままの格好で、音も無く沈んだり浮かんだりしていた。

 

おそらく生きている人間ではない。

 

この辺の水深は10メートルはある。

 

深い淵なのだ。

 

何十人もの花魁を溺れさせ、皆殺しにしたくらいに。

 

目を凝らすと、次第にそれの体がこちら側に向いてきているのが分かった。

 

気付かれたらお終いだ。

 

暗い藪越しに、皆が息を潜めた。

 

それはしばらくして、浮き沈みを止めた。

 

上半身だけ浮かべたまま静止している。

 

そして突然、それが顔を上げた。

 

腐ったような黒い目が、濡れ髪越しに僕達を見ていた。

 

「うぅ・・・うっ」

 

女性二人が、ほぼ同時に腹を抱えてうずくまった。

 

僕とAくんがそれぞれの彼女に駆け寄る。

 

どうしたのか尋ねると、あの目を見た途端、急にお腹が痛くなってきたのだという。

 

僕とAくんは顔を見合わせた。

 

女二人が同時にか?

 

今この状況では非常にマズい。

 

「ヤバい・・・」

 

一人で崖の下を注視していた守山くんも、緊迫した顔で振り返った。

 

「気付かれた!今、岸をあがった。崖を登ってる。下のお堂を抜けた・・・あいつ、こっちに来るぞ!」

 

大慌てで今まで来た道を引き返そうとした。

 

だが、女性陣が動けない。

 

可哀相だが、彼女を無理矢理に急かした。

 

AくんもBさんの手を引こうとして、悪戦苦闘していた。

 

でも僕達は、30メートルも動けなかった。

 

車までは、まだかなり遠い。

 

さっきまで居た暗い藪が、ガサガサと揺れた。

 

来る。

 

このままでは追い付かれてしまう。

 

「ダメ。お腹が痛くて動けない」

 

彼女が泣き出してしまった。

 

僕は焦る。

 

こんなところで泣いてられないだろ。

 

仕方ない、背中を貸した。

 

(あそこまでおぶって走れるか・・・)

 

「ここに連れて来ちゃいけなかったんだ。女を」

 

荒い息で、横を走る守山くんが言った。

 

「あいつは女に祟る。聞いた事があったのに忘れてた」

 

強引にいくつも藪を抜け、車までの道をショートカットした。

 

彼女をおぶって後ろ手に組んでいる僕の手が、ヌルヌルしているのに気付いた。

 

うわっと思ったが、構うもんか。

 

駐車場の明るい所まで来た途端、5人共が力尽き、アスファルトの上に座り込んでしまった。

 

「・・・消えた。気配がしない」、と守山くんが言う。

 

辺りを伺っている。

 

「あいつ、消えた?マジ?大丈夫?」

 

「多分・・・」

 

守山くんが言うのなら大丈夫だろう。

 

ホッとした。

 

駐車場の街灯の明かりで見ると、僕の腕に血がベッタリと付いているのに気付いた。

 

彼女の脚も血に塗れていた。

 

傷が酷いのか、幾筋も血が流れている。

 

恥ずかしがっている場合じゃない。

 

どこを怪我したのか調べるから脚を見せろと言った。

 

「いや私、大丈夫だから・・・絶対ダメ!」

 

「いいから見せろ!」

 

「ダメだったら!!」

 

押し問答の末、最初は拒んでいた彼女も観念して僕に従った。

 

だが、様子がおかしかった。

 

彼女のどこにも怪我は無かった。

 

AくんとBさんのカップルも同様だった。

 

かなり出血しているのに、痛がるところが無い。

 

どういう訳か分からない。

 

僕とAくんは、まさかとは思いながら、こっそりとそれぞれの彼女に聞いた。

 

「もしかして、アレか?」

 

彼女達は恥ずかしそうに無言で頷いた。

 

一方、車のエンジンをかけながら、守山くんはいかにも残念そうに言った。

 

「ここには来なかった。もう帰ろう。あ、席にはビニール敷いてね。汚れるから」

 

近くのコンビニで女の子用品を大量に買って帰途についた。

 

女性陣は二人共、かなり不機嫌だった。

 

そして、泣いていた。

 

宥(なだ)めるのには苦労した。

 

それから、彼女達は二度と守山くんの誘いには乗らなくなった。

 

その後、通常の生活に戻ってから半年間、彼女に生理が来なかった。

 

これには生きた心地がしなかった。

 

花魁淵(wikipedia)

(終)

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消えてしまったクラスメート

 

小学3年生の時に転校してきたサキちゃんから聞いた話。

 

サキちゃんがまだ1年生だった頃、とても仲の良いユキちゃんという女の子がいた。

 

ある日、ユキちゃんが学校に宿題を忘れてしまったらしい。

 

忘れ物に気が付いたのは夕方だった。

 

一人で取りに行くのは怖いからと、サキちゃんも付いて行くことになった。

 

学校に着くと、ユキちゃんは教室に宿題を取りに入り、サキちゃんは教室のすぐ外で待っていたらしい。

 

けれども、何分経ってもユキちゃんが教室から出てこない。

 

不思議に思って教室の中を見たら、ユキちゃんは居なかった。

そんな子はいない

教室のドアは閉まっていたし、開けたら音ですぐに分かるから、気付かれずに出ることは出来ない。

 

教室にベランダはなく、窓も全部閉まっていた。

 

怖くなったサキちゃんは、そのまま家に帰ってしまった。

 

次の日、学校に行ったら教室にはユキちゃんの机が無かった。

 

担任の先生にユキちゃんのことを訊いてみたら、「そんな子はいない」と言われてしまった。

 

同じクラスの子に訊いてみても、答えは同じ。

 

それでも信じられなかったサキちゃんは、帰りにユキちゃんの家へ行ってみたが、そこは空き地になっていた。

 

サキちゃんの話はここで終わった。

 

この話をした次の日、サキちゃんは急にいなくなった。

 

転校をしたという話はなかった。

 

担任の先生に訊いたら、「そんな子はいない」と言われた。

 

「サキちゃんがした話と一緒だ!」と思って、一緒に話を聞いていた子達にサキちゃんの事を訊いてみた。

 

すると、一人はサキちゃんを覚えていたけれど、他の子達はサキちゃんを知らないと言った。

 

今ではそうでもないけれど、当時はとても怖かった。

 

(終)

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地元に伝わるオバケの話

 

お婆ちゃんから聞いた話。

 

お婆ちゃんの住んでいた地域は、何度も空襲にあったという。

 

ある夜に警報が鳴り、近所の皆で防空壕に避難する途中、防空壕の付近に爆撃を受け、皆は覚悟した。

 

すると、いつのまに混じっていたのか、見たことのない子供が先頭に立っており、空を見上げていた。

 

小さな町内だから知らない子供などいるはずがないのだが、見覚えのない男の子だったという。

 

すると、空を見上げていた男の子がそのままの姿勢でぬーっと体が伸び上がり、皆を包むような姿勢で空を塞いだ。

 

敵機の焼夷弾は男の子の背中に落ち、燃えていたような感じだったとか。

 

皆は唖然となったが、それよりも燃え盛る炎がいつ自分達に降りかかってくるかと恐れ、小さく固まって頭を抱えていた。

 

男の子はそのままお婆ちゃん達を包み込み、長く続いた空襲から守ってくれた。

 

爆撃が終わると元の身長に戻り、ペコッと頭を下げると走ってどこかへ行ってしまった。

 

幸いなことに、その時その場にいた皆に怪我人は出なかった。

 

終戦後、お婆ちゃんのお母さんや近所の人が、あの時の子供のお化けにお礼をと方々に聞いて回ったが、子供の情報は得られなかった。

 

お婆ちゃんは、「なんだったのかわかんないけど、お化けが守ってくれたんだねえ。日本のお化けはやっぱり日本人の味方なんだねえ」と言っていた。

 

他にも、地元に伝わる伝承に似たような話がある。

 

数百年前、この辺りは小さな農村だったらしいが、大飢饉の際に一人の童がぐっと背伸びをすると、その体は遠くの山を越えてしまい、大きく伸ばした腕いっぱいに魚や木の実や米俵を抱えて戻り、荒れ果てた田んぼにドサッと落としてくれた。

 

童は何度か食糧を運んでくれて、そのおかげで村人は生き延びることが出来たとか。

 

しかし一方で、帰宅中に後ろを付いてきた男の首と肩がどこまでも伸びて追いかけてきて、慌てて家まで逃げ帰ったが、数日もたずに狂死してしまった、なんていう話も伝わっている。

 

何か得体の知れないものが、この地域にずっと棲んでいるのかも知れない。

 

(終)

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鳴るはずの無い内線電話

 

私は薬剤師で、今年からある田舎の病院に勤務している。

 

その病院の薬剤師は、私を含めて3人。

 

そして、一番下っ端の私は何でもやらなくてはならない。

 

ある日のこと、いつものように夕方近くに外来が終わり、病棟のオーダーに基づいて注射薬の払い出しをしていた。

 

どういう訳か、この日のオーダーはややこしいのが多く、病棟に問い合わせをしたりしながら作業をしていると結構な時間になってしまった。

 

しかも、その日のうちに薬品会社へ発注をかけなければならない薬があり、その発注書を作らなければならなかった。

 

食堂に晩飯を予約しておけばよかった、と思いながら発注書を作り始めた時、内線が鳴った。

電話機の表示は・・・

しかし、受話器を上げても声がしない。

 

「薬局ですけど、なんですか? 」

 

と呼びかけるが何の応答も無い。

 

電話機にはA病棟のナースセンターを示す内線番号が表示されている。

 

電話の故障か?と思い、一旦切った。

 

しかし、また内線が鳴る。

 

出ると、さっきと同様に応答が無い。

 

これが2~3回繰り返されると、さすがにイライラし始めた。

 

しょうがなく調剤室を出て、A病棟へ向かうことにした。

 

A病棟は5階。

 

エレベータに乗り、階数ボタンを押す。

 

2階、3階、4階・・・

 

エレベータが止まり、扉が開いた時にようやく思い出した。

 

この病棟、改装中で使われていなかった。

 

シートがそこら中に張られている真っ暗なフロア。

 

目を凝らすと、エレベータの出口の真ん前にあるナースセンターに看護師らしき人間が一人立っている。

 

火災報知機の赤いランプの灯で、ナースキャップ、そしてカーディガンを着た 後ろ姿が薄っすらと見える。

 

何をしているんだろう、とエレベータから降りようとした時、心臓が止まりかけた。

 

その看護師の身体を透かして向こう側が見える。

 

必死でエレベータの「閉」ボタンをガチガチと押した。

 

エレベータのドアが閉まり、再び開くまで目を閉じたまま耐えた。

 

そして「チン」という音を聞くと、飛び出すようにエレベータを出た。

 

一刻も早く病院を出たかった。

 

しかし、調剤室を放ったらかしには出来ないし、発注だけはしておかないとエライことになる。

 

小走りで調剤室に向かい、書き殴るように発注書を仕上げ、チェックしてファックスに突っ込もうとした時、また内線が鳴った。

 

着信音と共に、小さな赤いランプが点滅している。

 

無視した。

 

絶対に表示を見たくない。

 

ファックスが送られたのを確認し、電気を点けたまま調剤室を出て鍵を掛けた。

 

暗くなった調剤室を見るのが嫌だった。

 

翌日、出勤すると事務課の職員から調剤室の明かりが点けっ放しだった、と小言を言われた。

 

謝りながら、「A病棟って内線が通じるんでしたっけ?」と訊くと、「え?医局からも同じ問い合わせがあったけど、改装中だから通じませんよ 」と言われた。

 

(終)

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心霊スポットで撮ってきた危ない写真 2/2

前回までの話はこちら

守「あの写真を見せるんじゃなかった。ふざけてて油断してました」

 

守「最初に言いましたよね。アレを見て思ったことを口に出すとヤバいと。だから、説明することが出来ない」

 

守「口にしただけで、またすぐにアレが来ます。俺には来るのを止められない。言っときますけど、あそこはマジですから。ホントにシャレになりません」

 

彼いわく、二人が心霊写真を撮ってきたK野神社は、この辺りでは最凶の有名なスポットだ。

守「あそこは関東の西の要。ここら辺を東西南北に通る、霊道の交差点みたいなもんです。あそこを通る連中には、時折凄いのが稀にいます」

 

守「よく分からないけど、凄く冷たくて速い奴とかもいる。そいつが通った場所は一瞬で空気が無くなる」

 

守「それで物が裂けたり、凍ったりする。現象的には鎌鼬(かまいたち)に結構似ているやつです。さっき来たのが、まあソイツですけど」

 

(おい、やけに詳しく説明してないか?また来ちまうだろ、ソイツが)

 

ということは、近くにいて失禁気絶したアシスタントは、本当に運が良かったに違いない。

 

守山くんの言ったモノにまともに当たっていたら、冷凍バラ肉になっていたかも知れない。

 

守「本当にすみませんでした。止められなくて」

 

殊勝にも、モリヤマくんは改めてそのアシスタントさんに土下座までして謝罪した。

 

※殊勝(しゅしょう)

心掛け・行いなどが、けなげで感心なこと。

 

先生も、しまいに天井を見上げながら言った。

 

先「もういいわ。これ以上聞くと、俺が引っ越さなきゃいけなくなりそうだ」

 

確かに、ここは先生の自宅だし。

 

これ以上、事が深刻になると仕事に触るだろう。

 

守山くんは少し黙って、表情を曇らせた。

 

守「まあ、あいつのことなら少しは話せます。逆に理解してやって欲しいし」

 

(鈴木さんのことか?)

 

守「最初、中学であいつに会った時、俺も本気で心配になりました。クラスみんなで最初に自己紹介やった時も、あいつだけ”事故”紹介ですって言って笑ってやってましたから」

 

守「霊媒体質っていますよね。よく色んなのが憑いちゃって肩を重そうにしてる人。でも普通は自分の魂のおかげで、そうそう入っては来れません」

 

守「しかしあいつの場合は、憑け込まれる場所というか、容量が普通の人より大きいんです。というより、スカスカなのでスポンジみたいにどんどん入ってきちゃう」

 

守「この前、あいつのアパートに行ったら、順番待ちが部屋の外まで溢れていました。笑っちゃったのが、外に溢れた連中が列を作って待ってるんですよ」

 

(順番待ちの連中ってなんだ?)

 

(スポンジみたいにスカスカってどういう意味だ?)

 

守山くんは話を続ける。

 

守「俺、あんまり音の方は聞こえないんです。逆に耳が良すぎて雑音が入ってくるんで感じられないんです。どっちかというと見えちゃう方」

 

守「六つ子くらいの胎児みたいなやつ、何があったかパンパンに膨れた女、ずーっと叫んでるような顔をしてるおばさん、潰れたゴキブリ、良く分からない白いブヨブヨしたもの、青ざめた顔でドアをノックし続けてるハゲ・・・」

 

守「5メートルくらいの顔の無い人、脳みそが出て首をカクカクさせている小学生、首も手足もないけどジタバタしてる肉塊、首が50センチくらい延びちゃって上向いてる人・・・」

 

守「ハラワタの出たネコ、同じ場所を回り続けてる小人、頭から足の生えてるカラス、人の形をした焦げた皮、あ、あと手とか足だけってやつもいました」

 

守「そいつらが全部、あいつに取り憑く順番を待っていた」

 

ぶぅげえぇおええ!

 

さっき失禁気絶したアシスタントが、今度は今まで飲んでたものを吐いた。

 

守「色んなのが入ってくるので、あいつの何が主体の憑きものか俺にも分かりません。すみません。これ以上は詳しく言えません」

 

(いや、もうかなり詳しいだろ)

 

僕は再びアレを呼び込まないように、思わず口に出さないように注意して、自分なりに頭の中だけで整理してみた。

 

(あの影は悪魔じゃない。鈴木さんに入ってくる、その色んなモノが影になって写ったのだ。・・・キメラだ)

 

※キメラ

同一個体内に異なった遺伝情報を持つ細胞が混じっていること。またそのような状態の個体のこと。

 

鼻をすすりあげる音が聞こえた。

 

守山くんだった。

 

いつの間にか彼は涙ぐんでいた。

 

そしてグシャグシャに泣きながら、言った。

 

守「あいつ、元から半分なんですよ。魂が・・・」

 

(終)

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心霊スポットで撮ってきた危ない写真 1/2

 

大学のサークルの関係で、漫画家のアシスタントのバイトをしていた時期がある。

 

高円寺の北にある先生の自宅に伺い、5人くらいの編成で一人一晩1万円。

 

僕の担当は、背景とトーンワークだった。

 

そのアシスタント達の中に一人、結構な変人がいた。

 

名前は守山くんという。

 

黒ブチのメガネをかけた、見た目は普通の好青年だ。

 

彼も大学生。

 

その守山くんは、来る度にニコニコ笑いながら心霊写真を持ってくる。

 

これが毎回、なかなかにエグい。

 

彼がアシスタントに来ると先生もその輪に入ってしまい、なかなか仕事にならない。

 

だがこの日、彼が持ってきた写真はいつにも増してヤバかった。

危ないモノを呼び込んでしまう

守「この前、K野神社で撮ってきたんですよ。天気も良くて。いや~凄かった」

 

フィルム2本で48枚のプリントは、冗談でなく全てがおかしかった。

 

まず、全部が粒子の色が泡立っていて砂地のように見える。

 

どの樹木を写しても、木の葉の影に髑髏(ドクロ)が無数に見える。

 

階段を撮っても、そこに落ちる木立の影が牛の頭の骨に見える。

 

写真のどこかに霊体が・・・というレベルではない。

 

全ての写真の全面に写っているのだ。

 

ここまで来ると、皆が黙りこくってしまった。

 

普段は「スゲ~」だの「ヤベ~」だの騒いでいる先生も静かになっている。

 

それらは息を呑む作品群だった。

 

夏の暑い日、窓を開けているのに部屋の温度がどんどん下がってきているのが分かる。

 

守「いいすっか。次の写真は絶対に論評しちゃダメっすよ。口にするとヤバイ。マジで」

 

守山くんは、この日の”とっておき”をペラリと出した。

 

僕「・・・これ、誰ですか?」

 

守「ああ、彼?一緒に行った鈴木」

 

あまり悪い事は言いたくないが、正直、素人目に見ても彼は長生き出来ないのではないかと本気で心配になる写真だった。

 

いや、この鈴木さんという人物、本当に人間なのだろうか?

 

それすらも怪しい。

 

心霊写真を見ただけで涙ぐんでしまったのはこれが初めてだった。

 

平らな場所に、その鈴木さんが両手を後ろ手に組んでこっちを向いて笑っている。

 

太陽は彼から見て右手の頭上にある。

 

故に、影は彼の左下、つまり写真に向って右下に伸びるはずだ。

 

だが、この影がとんでもなかった。

 

まず、彼の影が彼の足元に繋がっていない。

 

ここから既におかしい。

 

影の片手が上がっていて、長い杖みたいなものを持っている。

 

(なんだろう、これ?)

 

背中には、一際大きな影が。

 

(これは翼?)

 

頭には角のようなものも。

 

(もう勘弁してください・・・)

 

ダメ押しに、尻尾のようなものが腰から。

 

(これではまるで悪・・・)

 

同じ言葉を、よりにもよって先生が呟いてしまった。

 

先「・・・これは・・・まるで、ア・・・」

 

守「それを言うなぁあ!!」

 

守山くんの、鋭い声の一喝が響いた。

 

びっくりして振り向くと、鬼のような形相で部屋の片隅を見つめている。

 

顔を真っ赤にして、冷や汗をかいてブルブル震えている。

 

守「その窓を閉めろ!」

 

言われるがまま、弾かれるようにアシスタントの一人がその窓に駆け寄った瞬間、カーテンを引き裂いて何か白い塊が飛び込んできた。

 

それは凄い速さで部屋の中を通り抜け、向こうの開いている窓から飛び出して行った。

 

本当に一瞬だった。

 

一番間近にいたそのアシスタントは、失禁して気絶していた。

 

僕たちもさすがに腰を抜かして、しばらく立てずにいた。

 

守「もう、大丈夫っす」

 

守山くんの一言で、ようやく皆が無言で自分の位置に戻る。

 

それからは誰も話をしようとしなかった。

 

先「これじゃ仕事にならねえな・・・」

 

先生が呟いた。

 

(まあ、確かに)

 

先「今日は終わり。これで酒を買ってきて。でもみんな朝まで居てくれよ。俺が怖いから」

 

その後は怖がっている先生を囲んで酒盛りになった。

 

守山くんは足の竦(すく)んだアシスタントを2人引っ張って酒を買いに行く。

 

失禁したアシスタントには先生のトランクスとジャージを貸してシャワーを浴びさせている。

 

まだ放心している先生は座らせておいて、僕は酒盛りの用意をし始めた。

 

それまで皆が使っていた飲み物のコップを一回洗っておこうとしてギョッとした。

 

誰かの麦茶の飲み残しが、ガチンガチンに凍りついていたからだ。

 

酒を買いに行っていた守山くん達が帰ってきたのは1時間後だった。

 

ビールとつまみを、新聞を敷いた床にガラガラとあけて酒盛りが始まったのだが、静かだ。

 

皆、さっきのことを訊きたくて仕方がない。

 

だが、誰も切り出せない。

 

守山くんは一人だけ黙々とビールを腹に流し込み、平気で柿の種をバリバリ喰っている。

 

先「なあ・・・さっきのは・・・」

 

堪りかねて話しかけたのは先生だった。

 

(先生、実は相当に我慢弱い)

 

守山くんの手が止まった。

 

(続く)心霊スポットで撮ってきた危ない写真 2/2

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コックリさんは終わっていなかった

 

俺の女友達に、いわゆる「見える」奴がいる。

 

大学の新入生歓迎会で知り合った奴なのだが、外見は至って普通。

 

でも、勘の良さというのか、第六感が半端じゃない。

 

知らない道に迷い込んだ時、いきなり立ち止まって「この近くで猫が死んでるね」と、さらっと言い出す。

 

面白がって辺りを探してみたら、自販機の裏についさっき轢かれたような猫の死体が隠すように押し込められていた、なんてこともあった。

 

「いつから見えるんだ?やっぱりキッカケとかあるのか?」

 

ある日、喫茶店で話していた時に、冗談半分で彼女に訊いてみたことがある。

 

初めはお茶を濁そうとしていたが、俺があまりにしつこいせいか、結局折れて話してくれた。

 

「後悔しないでね」、と前置きを入れて。

以下、彼女の話

私が小学校3年の時にね、クラスでコックリさんが流行ったの。

 

私は当時はまだ「見えなかった」から、そういうのを信じていなくてね。

 

でも、私のクラスにコックリさんに夢中になっているグループがいたんだ。

 

霊感があるって子が中心のそのグループは、なんかある度に「コックリさんが当たった」だの、「コックリさんが言う通りの事が起こった」だの言ってたのよ。

 

私、正直嫌いだった、その子。

 

それである時、私とその自称霊感少女が喧嘩になってね、コックリさんの事で。

 

「いる」、「いない」の水掛け論だったんだけど、「証拠を見せてやる」なんて言うから私もつい乗っちゃったのよ。

 

まぁ、本当かどうか興味はあったし。

 

その霊感少女グループと私の合計4人で、コックリさんをやることにしたわけ。

 

放課後になるのを待って、私たちは屋上に向かう踊り場に行ったの。

 

なんでも、そこが校舎の中で一番いい「ポイント」らしくてね。

 

バカバカしいと思いながらも、コックリさんの準備を手伝ったわよ。

 

使われていない机を並べたりしてね。

 

それでいよいよ始まった。

 

何回か「コックリさん、コックリさん、おいでください」って呼びかけているうちに、10円玉がすぅっと『はい』に動いたの。

 

他の皆はコックリさんが来たって騒いでいた。

 

その様子を見ていたらなんか馬鹿らしくなって、私はふざけて「コックリさん、コックリさん、お願いですから私たちに幽霊を見せてくださぁ~い」って言ったの。

 

10円玉は『はい』に動いた。

 

すると、みんな慌てて逃げて行った。

 

コックリさんは今でも続いていた

俺「・・・それだけ?」

 

拍子抜けした。

 

確かにドアを叩かれるシーンでの大声には驚いたが、それはあくまで”驚き”だ。

 

恐怖とは違う。

 

話自体も中途半端のままだ。

 

俺「その話、なんか続きないのか?どうも中途半端だ。オチが弱い」

 

正直に聞いた。

 

元々遠慮するような間柄じゃない。

 

女「人がせっかく話したってのに、そんな酷評をしやがりますか、貴様は・・・」

 

そう言いながらも、彼女はニヤニヤしている。

 

どうやら、まだオチは先らしい。

 

女「次の日にその場所へ行ってみたら、コックリさんのセットは無かったの。きっと、見つけた先生が片付けたんじゃないかな」

 

女「でもね、コックリさんのルール、最後は呼び出したものを鳥居を通して帰さなきゃならないじゃない。私達はそれをやっていない」

 

女「だから、あの時のコックリさんはまだ続いているのよ」

 

ゾクッとした。

 

10年以上も続いているコックリさん。

 

呼び出されたモノは何処へ行ったのか。

 

俺「だったらさ、その時のメンバー集めてまたコックリさんやればいいんじゃないか?それで帰ってもらえば万事解決だろ?」

 

それは無理、と彼女は言った。そして・・・

 

女「だって、私以外もう死んじゃってるんだもん」

 

絶句した。

 

固まっている俺を気にもせず、彼女は続けた。

 

女「死に方は事故だったり自殺だったり色々だけどね。結局、一番最初に指を離した私だけが今のところは無事なの」

 

女「さて、私はそろそろ行くけど、嫌な話させたんだからここ奢りなさい。じゃ、またね」

 

俺は何も言えなかった。

 

自分のせいで死んだかも知れないクラスメート。

 

思い出したくもないだろう話を、俺は彼女にせがんだ。

 

激しく後悔していた。

 

一言謝ろう。

 

そう思って顔を上げると、彼女と視線がぶつかった。

 

店を出る準備をしていた手を止めて、彼女は俺を見ていた。

 

女「するなって言ったのに、後悔してるみたいね」

 

頷く。

 

すまん、と言う前に彼女が続けた。

 

女「じゃあ、後悔ついでにもう一つ。私ね、小学校までは垂れ目だったのよ」

 

自分の目を指差して、彼女は笑っていた。

 

呆気に取られて固まっていると、彼女は軽い調子で「そんじゃね!」と店を出て行った。

 

10年以上も続いているコックリさん。

 

呼び出されたモノは”目の前”に居たのだろうか。

 

彼女は吊り目だ。

 

(終)

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