謎怖 23巻

隣の個室から聞こえる男の声

 

高校時代の話になる。

 

電車で下校中に腹痛を感じ、途中下車した駅のトイレに入った。

 

非常に汚いトイレだった。

 

用を足していると、隣の個室から「名前は?」と男の声が聞こえた。

 

トイレには俺以外に誰も居なかったはずだが・・・。

 

声はそのまま「住所は?」、「電話番号は?」、「趣味は?」と質問を続けた。

 

気持ち悪いので、俺は黙っていた。

 

質問は俺が水を流すまで続いた。

 

個室から出て隣の個室を見ると、ドアは開いており誰も居なかった。

 

物音や誰か出入りした気配は無かったはず。

 

驚いて中を見ると、壁の落書きにさっきの質問と同じ文面を見つけた。

 

黒のインクで書かれた綺麗な字だった。

 

十ほどの質問が書かれており、先程の声が質問した内容と一致していた。

 

俺は一気に恐怖を感じ、全身に鳥肌が立った。

 

そして逃げるようにしてトイレから出た。

 

それから十数年、最近偶然その駅を利用したのだが、構内は綺麗に改装されており、トイレも新しくなっていた。

 

もちろん、落書きはもう無かった。

 

(終)

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大ヤケドを負った夫の元に現れた男達

 

昭和の初め頃、夕張のボタ山でのお話。

 

※ボタ山

石炭や亜炭の採掘に伴い発生する捨石(ボタ)の集積場のこと。

 

開拓民として本州から渡って来ていた炭鉱夫Aさんは、爆発事故に見舞われた。

 

一命は取り留めたものの、全身ヤケドの重体だった。

 

昔の事なので、ろくな治療も施されず、全身包帯に包まれて、女房の待つ飯場の一部屋に担ぎ込まれた。

 

付き添って来た医者は、「大怪我だが、今夜を乗切れば命は助かるだろう。何かあれば呼びに来なさい」と、自宅の場所を教えて引き上げていってしまった。

 

その真夜中の事。

 

ロウソク一本の薄明かりの下、枕元で一人看病していた女房がふと気付くと、玄関に誰かの気配がする。

 

出てみると、大勢の男達が立っていた。

キツネの仕業?!

彼らが言うには、「自分達はAさんと一緒に働いている仲間である。今日は大変な災難に遭われてお気の毒です。すぐにでも見舞いに来たかったのだが、あいにく我々も作業を中断するわけにいかず、こんな非常識な時間になってしまった。どうか我々にもAさんの看病の手伝いをさせて欲しい」との事。

 

女房は一人で心細かったところへの、この温かい申し出に感動し、部屋に入りきれないほどの仲間達を迎え入れた。

 

それぞれ一人ずつAさんに話しかけ、励ましては部屋の中に座って、女房にも優しい言葉をかけてくれる。

 

女房はすっかり安心してしまった。

 

その中の一人が、「自分は医術の心得がある。診察してやろう」と申し出た。

 

見れば、ボタ山で働いているとは思えない立派な紳士だった。

 

誰かの知人なのだろうか。

 

彼は、「これは酷いヤケドだが、私は幸いヤケドの治療法に長じている。今夜のうちに術を施せばAさんはすぐ治る」と言った。

 

女房に否応が言えるはずもない。

 

やがて、紳士による治療が薄暗がりの中で始まった。

 

治療は荒っぽいものだった。

 

紳士は、「ヤケドには焼け焦げた皮膚を取り除いてやるのが一番の治療法だ」と説明し、Aさんの身体を包んでいる包帯を取り除けると、やがてAさんの皮膚を無造作に剥ぎ取り始めた。

 

炭鉱夫仲間でも屈強な身体付きで知られたAさんも、これは堪らない。

 

Aさんはあまりの苦痛に絶叫し、「いっそ殺してくれ!」と泣き叫んだ。

 

女房はおろおろする以外、何も出来ない。

 

あまりの凄まじさに、女房も耳を塞いで泣き叫び始めた。

 

紳士は、「ここが辛抱じゃ。すぐ楽にしてやる」と声をかけながら、眉ひとつ動かさず作業を続ける。

 

どれぐらい時間が経ったか。

 

いつしかAさんの絶叫は治まっており、静寂が戻っている。

 

紳士は女房に、「心配かけたがもう大丈夫。すぐに元気になるよ」と声をかけ、席を立った。

 

女房は何度も何度も頭を下げながら、表まで紳士を見送った。

 

遠い空が薄っすら明るくなっている。

 

もうすぐ夜明けだ。

 

部屋に戻ると、さっきまで狭い部屋から溢れ出るほど大勢いた見舞客が一人も居なくなっていた。

 

女房は不思議に思うより、不快に感じた。

 

帰るのだったら一言くらい挨拶してくれても良いじゃないか、と。

 

疲れ切った女房は、Aさんの枕元に腰を下ろし少し休もうと思ったが、Aさんの顔色を見て驚愕した。

 

夜明けの日差しの中で見るAさんの顔色。

 

それは、まるでロウのようだった。

 

女房はAさんに取りすがって、再び号泣するしかなかった。

 

騒ぎを聞きつけた隣人に連れて来られた医者は、Aさんを見るなり女房を怒鳴りつけた。

 

「誰が患者をいじった!」

 

Aさんを包む包帯の巻き方は、明らかに素人のものだった。

 

包帯を取り除けた医者は、Aさんの身体から目を背けた。

 

無惨に生皮を剥ぎ取られた“遺体”がそこにあった。

 

あまりの奇怪な事件に警察が呼ばれ、半狂乱の女房から何とか事情を聞き出した。

 

だが、その夜に現れた男達も、あの紳士も、ボタ山はおろか近隣の町村に該当者はいなかったという。

 

話を聞いたある人が、「それはキツネの仕業だろう」と言ったそうだ。

 

キツネにとって人間の瘡蓋(かさぶた)やヤケド瘡は霊薬になるとされ、ある地方では「瘡蓋やヤケドのある者が山に入るとキツネに騙される」という言い伝えもあるそうだ。

 

女房は目の悪い女で、日頃から泣き腫らしたような瞼(まぶた)の持ち主だったという。

 

キツネはそれに付け込んだのだろうか。

 

残念ながら、女房がその後どうなったかまでは伝わっていない。

 

(終)

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高熱を出して寝込んでいる時に

 

小学5年か6年生だった頃の話。

 

当時の俺は身体が本当に弱くて学校もよく休んでいた。

 

平日なのに家にいる時間が多く、友達も多くなかった。

 

ある日、いつものように高熱を出して自分の部屋で寝込んでいると、居間から物音が聞こえてきた。

 

母は買い物に出掛けたし、もしかして親父が帰ってきたのか?と重たい身体を動かして居間に向かった。

 

すると、頭が異様に大きな知らないお爺さんがソファーでくつろいでいる。

 

びっくりしたけれど、親戚の人かと思って「どちら様ですか?」と色々訊いたが、「ああ」とか「うん」とかしか言わない。

 

とりあえず母が帰って来るまで時間を稼ごうと、麦茶とポテチをご馳走した。

 

でも具合悪くて今にも倒れそうだったので、お爺さんに「上で寝てるけど、もしなんかあったら言ってください」と言い残して再び寝始めた。

 

10分もしないうちに玄関から鍵を開ける音とドアが開く音がして、母の「ただいま」という声がした。

 

母はすぐ部屋に向かってきて「調子はどう?熱下がった?」と訊いてくるので、「お客さんリビングに居たよ」と言った。

 

すると、「どこにも居なかったよ。ポテチとコップ置いてあったけど、食欲出てきた?」と言う。

 

「はぁ?」と思って身体を起こしてみると、さっきのだるさが嘘のように身体は軽くなり、さらに40度近い高熱も下がっていた。

 

居間には空っぽになったコップとポテチの袋があった。

 

それからというもの、信じられないくらい身体は丈夫になり、学校を休むことも少なくなって友達もたくさん出来た。

 

嫁と母にこの話をすると未だ信じてくれないが、あのお爺さんの声と気難しそうな顔、それに異常に大きな頭は今でも覚えている。

 

(終)

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すまん、この子はどうしても思い出せん

 

先日、小学校の同窓会があり、出席率のいい我がクラスは物故者以外全員出席していた。

 

ヨボヨボながら、恩師も健在。

 

○○小学校6年2組のメンバー勢揃い。

 

持ち寄った卒業アルバムの集合写真を指差しながら、「これは誰それ、それは誰それ」と微笑ましく名前を読み上げる恩師。

 

ああ、よく覚えてくれてるなあ、と数十年ぶりの恩師に感動しながら見ていたら指が止まった。

 

恩師は悲しそうな顔をして、「すまん、この子はどうしても思い出せん」と呟いた。

 

みんながそれを誰だか当てようとしたけれど、誰一人として思い出せない。

 

そのうちに、名簿と人数と顔を照らし合わせていったら一人多かった。

 

ところが、集合写真ばかりじゃなくて、遊んでいたり笑っていたりする写真にも、その男の子はあちこちに写っていた。

 

全員が、恩師も含めて記憶の無いその男の子の存在に、なぜか胸に引っかかるものを覚えたまま帰宅。

 

「思い出したら教えてくれよ」と、互いの電話番号も交換して別れたのだが、誰からも情報は届かない。

 

どこか時空の歪みに入ってしまって記憶からも消えてしまったのだろうか?などと、荒唐無稽な事を私は考えている。

 

※荒唐無稽(こうとうむけい)

言動に根拠がなく、現実味のないこと。

 

(終)

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サークル仲間と馬鹿騒ぎした翌日に

 

大学の同級生から久しぶりに忘年会の誘いがあって思い出した事がある。

 

大学3年の12月、サークルの連中と飲んでいた。

 

2次会が終わったところで、何人かが終電に間に合うようにと帰っていった。

 

俺は5人くらいの仲間と残り、朝まで安い居酒屋で時間を潰して始発で帰った。

 

次の日、家で爆睡していたら、昼過ぎに仲間の一人から電話がかかってきた。

 

昨晩、先に帰ったKが事故で死んだと聞かされた。

後に怪死事件と週刊誌に書かれる

その日の夕方、締め慣れないネクタイに悪戦苦闘した後、Kの通夜会場に向かった。

 

昨日の夜はあんなに馬鹿騒ぎしていた連中が、今日は喪服姿で神妙にしているなんて、不思議な光景だった。

 

おまけに一人は棺桶の中・・・。

 

通夜会場を早めに後にして、俺達は帰り道にあったファミレスに入った。

 

そして、Kと一緒に帰ったSから事故の話を聞いた。

 

KとSは同じ方向だったので、途中まで同じ電車に乗って帰っていた。

 

その当時、KとSは俺達の間では微妙な関係だった。

 

元々Kの彼女だった女の子が、Kとはっきり別れないうちにSに乗りかえようとしているみたいな噂があり、事情を知っている俺達何人かは結構ヒヤヒヤしながらその三角関係を見守っていた。

 

Kは、彼女とSの関係をまだ知らないと俺達は思っていた。

 

電車の中でKは何か考えている様子で、Sが話しかけてもただずっとニヤニヤしているだけだったらしい。

 

そのうちKの乗り換えの駅に着くと、Sに「お前も気を付けて帰れよ」と言い残して降りていった。

 

ドアが閉まり、SはKに向かってガラス越しに手を上げた。

 

(その時に「Kは凄い顔で睨み付けた気がする」とSが後から言っていた)

 

Sを乗せた電車は、深夜にしてはかなりの数の乗客を乗せて動き始めたが、5メートルも進まないうちに突然ガタンと急ブレーキをかけて止まってしまった。

 

かなり長い間、Sを含めた乗客を乗せたまま電車は止まっていた。

 

そして車内アナウンスが流れ、Sはこの電車で人身事故があったことを知った。

 

ドアが開いてSは外に出ると、駅構内は大騒ぎだった。

 

事故は電車の先頭であったらしく、人だかりが出来ていた。

 

SはKがまだホームにいるんじゃないかと思いながら、その方向に歩いていった。

 

事故は、動き出そうとした電車の前に人が落ちたか飛び降りたかして電車の下に入ったらしく、何人もの駅員が線路に降りて大声を上げながら電車の下を覗き込んでいた。

 

野次馬に混じりSもホームから様子を見ていたが、やって来た救急隊員が電車の下から引っ張り出してきた被害者のものらしい上着を見てSは青くなった。

 

それは、俺達サークルのスタジャンだった。

 

その後のSは、Kの家族と病院へ行ったり警察の事情聴取やらで大変だったらしい。

 

一睡もしてないらしくて、目は真っ赤で凄くやつれた顔をしていた。

 

Sは焦点の合わない目をしながら俺達に向かってしきりに、「どうしてあいつが俺の乗ってた電車の先頭に落ちられるんだよ。俺達は後ろの方の車両に乗ってたんだぜ。どうやったらそんなに早く移動できるんだよ」と言っていた。

 

その後この事故は、小さくだけど週刊誌に『怪死事件』として書かれた。

 

電車の運転士もKが落ちるところを見ていなかったらしい。

 

Sが警察に疑われているとか、サークル仲間のところに刑事が来たとかの噂が流れて、なんとなくSとは疎遠になり、卒業後は音信不通になってしまった。

 

Sが嘘をついていたのかどうかは謎だが、少なくともその時は作り話をしているようには俺には見えなかった。

 

(終)

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生命の危機が訪れると

 

俺には時間が巻き戻る感覚が度々起こる。

 

一度目は、保育園から脱走した途端にトラックに跳ねられたはずなのに、その少し前に戻っていた事。

 

二度目は今年初めの事だ。

 

会社で作業中、有機溶剤を使っていて横にはコンクリートを切断している火花。

 

いつものことなので、さっさと終わらせようと手を動かしていたら突然引火。

 

手元から顔へ炎が噴き上がり、顔を大ヤケド。

 

眉毛がじゃりじゃりになって顔全体が火ぶくれに。

 

同僚に連れられて病院へ。

 

医者に手当をてしてもらいながら、段々と息が出来なくなり気が遠くなる。

 

「酸素マスク!」と医者が叫び、「ああ、ドジったな。ここまでか」なんてぼーっと考えていた。

 

すると、はっと気付くと何事も起きていなくて、その作業を始める前に戻っていた。

 

一日分やった作業が消えている。

 

「ヤケドした夢?」と思ったが、記憶通りに作業工程が進み、別工程をしていた同僚が近くでコンクリートカッタ―を使い始めた。

 

「やべっ!」と思って俺は作業を中断。

 

現場監督に、「すいません。腹が急に痛くなって・・・」とばっくれた。

 

もしかしたら一度目の自分と二度目の自分は、別次元であのまま死んだんじゃないかと思っている。

 

三度目の正直が怖いので、注意深く生きてくつもりだ。

 

ちなみに、巻き戻しの起きた前も後も、自分の記憶がおかしいだけで世間には何の影響も無い。

 

でも、何かにもて遊ばれているような気もしている。

 

「きっと、この次はない」という予感をひしひしと感じている。

 

(終)

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俺の部屋に俺が入ってきた?!

 

高校生の頃の話。

 

今では何てことはないが、当時は「近いうちに死ぬかも」と悩んだ。

 

住んでいた家は戸建てで、俺の部屋は2階にあった。

 

階段を上った左右にドアがあり、その右側の6畳の部屋。

 

部屋の主なレイアウトは、ドアの対面にベッド、そしてドアの横にテレビ。

 

ベッドの上からテレビ(ドア側)を見る生活スタイルだ。

 

基本的にドアは閉めていて、開けっ放しにすることはまず無く、家族もよっぽどのことがなければ入ってくることはない。

 

それが起きたのは夏休みだったと思うが、ベッドに座ってテレビを見ていると、階段を上ってくる足音が聞こえた。

ドッペルゲンガーを見てしまったのか?

足音が部屋の前に来たと同時に、バン!とドアが開いた。

 

なんと、開いたドアから”俺”が入って来ようとしていた。

 

部屋に入ろうとした俺は驚いていて、大声を上げてすぐにドアを閉めた。

 

こっちの俺は固まって動けなかった。

 

怖くてドアを開けることが出来なかったので、窓から大声で親を呼んで2階に来てもらった。

 

もちろん誰も居るわけがなく、そんな与太には付き合えない感じで放置された。

 

それからは部屋に居るのが怖くて居間で過ごしていたのだが、さすがに不便で1ヵ月ほどで自分の部屋に戻ることにした。

 

それでもまだ怖かったので、部屋のドアを開けて生活することにしたのだが、冬になるとどうしても寒いので次第にドアを閉める生活に戻った。

 

ただ、部屋を離れる時はドアを開けるようにしていた。

 

ある時、部屋に入ろうとして”違和感”があった。

 

後に気付いたのだが、ドアが閉まっていたのだ。

 

その時は気付かず部屋に入ろうとしたら、こっちを見つめて驚いている俺が居た。

 

『自分とそっくりな人を見かけたら死ぬ』という迷信を聞いたことがあったのでかなりビビッていたが、あれから20年近く経つが無事に過ごせている。

 

ただ、部屋の中に居た時の俺は夏で、部屋に入って来た時の俺は冬と、季節が違っていたのが気にはなっている。

 

ドッペルゲンガー(Wikipedia)

自分自身の姿を自分で見る幻覚の一種で、「自己像幻視」とも呼ばれる現象である。 自分とそっくりの姿をした分身。

 

(終)

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生まれる前の記憶を持つ友人

 

大学のクラブの同輩に、根津(仮名)という男がいた。

 

彼は私と同じく、高校を卒業して大学に入るまでに2年間のブランクがあり、年齢も同じだった。

 

ある時、「次のようなことを覚えている」と根津は言い出した。

3人は出逢えたのか?

生まれてくる前に、地上を見下ろせる『ある所』にいた。

 

彼の右隣にはもう一人の男が、そして左側には女性がいて、3人横一列になって同じような格好で座っていた。

 

そこから下界の海が見えたので、そこは海の近くだったようだ。

 

周りを見ると、自分たちと同様に3人一組のグループがあちこちにいた。

 

この世界には段階があるようで、自分と地上の間はいくつかの層になっていて、同じように地上を見下ろしている人々が見えた。

 

自分たちのいる所よりもっと上にも何段階かの層に渡って人々がいるはずだが、自分よりも上の世界は見ることが出来ないらしい。

 

みんな、地上に生まれ落ちるのを待っているようだった。

 

根津の左にいる女性は性格的にとても気が強く、負けず嫌いで、積極的になんでも自分から進んでやるようなところがあった。

 

根津の右側の男性は、とても口数が少ない大人しい性格だった。

 

詩を作ったり、花を見て美しいと思うような女性的な一面を持った気が優しい人間だった。

 

その男の体は真っ黒で(肉体は持っていないので霊的次元で)、暇さえあれば「修行だ、修行だ」と言っていた。

 

彼ら3人よりも遙かに高い所には、神だか仏だか分からないが偉い存在が彼らをいつも見守っているらしかった。

 

が、その姿は見えず、根津はその存在からあまり好ましく思われていなかった。

 

というのは、彼は神に対して憎まれ口を叩くようなところがあったからだ。

 

もう一人の男は無口で暗い性格だが、真面目なところがその存在に気に入られていた。

 

他の人達はどうか分からないが、少なくとも彼ら3人にはキューピット的な能力が与えられていた。

 

自分の両親となる人を選ぶことができる権利を持っていた。

 

この父親と母親のもとに生まれたいという人を見つけて、その2人を結びつけて結婚させることが出来るのだ。

 

根津の隣の男が未来の母親として選んだのは、背が低くて少し太った女性だった。

 

彼女はとても気が強く、頑固だった。

 

彼はその女性とある男を結びつけ、結婚させた。

 

彼の父親となる男は、人間的にとても弱い面を持っていた。

 

そして2人は結婚した。

 

根津は私の両親に会ったことはなく、二人がどういう性格でどういう外見かを全く知らないはずだったが、彼の話す男の両親の描写は全て私の両親に当てはまっていた。

 

また、常日頃から私は過去生でインドのヨガ行者だったのではと思っていたので、「体が真っ黒」で、いつも「修行だ、修行だ」と言っていたというのも納得できる。

 

そうして3人が地上界へ生まれるべき時が来た。

 

根津は「俺が一番先に地上へ行く」と言って、その通りに彼が選んで結婚させた両親のもとへ生まれていった。

 

そのため、残った2人のうち、どちらが2番目に地上に降りて行ったかは、根津は知らないという。

 

しかし、2人の性格から想像すると、やはり引っ込み思案の男よりも、何事にも積極的な女の方が絶対先に生まれただろうと言う。

 

根津の生年月日は1956年4月28日の土曜日。

 

その「無口な男」というのが私のことだとすれば、私は1956年5月5日の土曜日に生まれていて、ちょうど根津が生まれた1週間後だ。

 

ということは、もう一人の女の方はこの1週間の間に生まれているということになる。

 

ところで、この3人は生まれていく前に、将来地上のどこかで出逢う約束をしていた。

 

そして、その時にお互いを認識できるようにと、それぞれ体のどこかにホクロを付けて、それを目印にしようということになっていた。

 

根津は左の顎に、女は右の背中に、そしてもう一人の男は右の胸にホクロを付けることにした。

 

根津がここまで話した時点で、その無口な男というのが私であるという確信は決定的になった。

 

なぜなら、私の右の胸にはホクロがあったからだ。

 

だが、根津は私の上半身の裸を見たことなどなく、胸にホクロがあるかどうか知っているはずはなかった。

 

生まれる前に根津と私と一緒にいた女に該当する女性が、今まで私の人生で出逢った女性の中に一人存在するのだ。

 

大学を卒業して根津とも会うことがなくなってからのことだった。

 

親友の吉田(仮名)が結婚したが、その相手が根津と私の間の、1956年5月3日に生まれている気の強い女性なのだ。

 

(終)

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遊びの最中に消えてしまった従兄弟

 

子供の頃、毎年夏休みになると、お爺ちゃんの家へ泊まりに行っていた。

 

お爺ちゃんの家は島根県の山奥で、周りの集落はほとんど親戚みたいな感じだった。

 

そこには僕と同い年くらいの従兄弟が何人もいて、いつもみんなで一日中遊んでいた。

 

僕が小学6年の時、従兄弟たちと缶蹴りと鬼ごっこが混ざったようなルールの陣取り遊びをしていた。

 

お爺ちゃんの家の敷地は馬鹿みたいに広く、隠れるところも沢山あった。

 

僕は物陰で2つ年下の信二と隠れた。

 

僕が先に飛び出しておとりになり、その間に信二が相手の陣地を取る作戦を立てた。

 

そうして僕は大声を上げながら敵陣に向かって突進した。

信二は帰れずに彷徨っている

陣地を守っていた敵が僕を捕まえようと走り出したのを見てから信二が敵陣に突進したが、寸前のところで敵に気付かれ、信二はUターンして逃げ出した。

 

敵の従兄弟の方が逃げる信二より数段足が速く、信二がすぐ近くに建っていた蔵の裏に逃げ込もうとした時には捕まる寸前で、二人はほぼ同時に蔵の裏へ消えていった。

 

その隙に、僕は楽々と相手陣地を取ることが出来た。

 

僕が相手陣地に立って大声で歓声を上げると、隠れていた従兄弟たちがゾロゾロと出てきた。

 

蔵の後ろから信二を追いかけていた敵の従兄弟も出てきたが、信二は居なかった。

 

「信二は?」と僕が訊くと、その従兄弟はぽかんとした顔で「消えちゃった」と答えた。

 

その従兄弟が言うには、手を伸ばせば届くくらいの目の前を走っていた信二が、蔵の角を曲がった途端に居なくなってしまったという。

 

僕も二人が蔵の裏に走って行くのは見ていたので、僕達は蔵の裏まで行ってみたが信二はどこにも居なかった。

 

僕達が隠れるところは大体決まっていたので色々探してみたけれど、結局は信二を見つけられなかった。

 

日が暮れ始める頃になると大人達もだんだん騒ぎ出し、集落のみんなが懐中電灯を持って裏山や近所を捜索し始めた。

 

僕達はお爺ちゃんの家に集められ、留守番をさせられた。

 

重苦しい空気の中、従兄弟が「見つかるはずないよ。消えちゃったんだよ・・・」と、いつまでも泣きながら言っていた。

 

その後、警察がやってきて事情を訊かれ、僕達はあるがままに答えた。

 

警察は怪訝な顔をしていた。

 

その日の夜中、どうしても我慢出来ずに便所に起きた。

 

広間からは明かりがもれていて、大人たちの話し声が小さく聞こえていた。

 

ちょっと安心して便所で用を足していると、静けさの中に何だか信二の声が聞こえるような気がしてきた。

 

僕の心臓の鼓動は段々と大きくなってきて、用を足し終える頃には鼓膜の横にある血管がドクンドクンという音の合間に、はっきりと「助けて!」という信二の声が聞こえていた。

 

僕は絞り出すように信二の名前を呼んだ、ような気がする。

 

すると信二は、「誰?見えないよ。ここはどこなの?」と答えた。

 

声はまるで四方の壁から聞こえてくるようだった。

 

おそらく本当は、全て恐怖からくる僕の頭の中での想像の会話だったのかも知れない。

 

便所を出た僕は、その後は朝まで大人達と一緒に居てもらった。

 

翌日もみんなが総出で古い井戸や汲み取り便所の中まで探したが、信二は見つからなかった。

 

警察は不審者の目撃情報なんかを集めていて、誘拐と事故の両方で調べていた。

 

僕達の意見は当然ながら無視された。

 

そして、僕は予定より早く東京へ帰ることになった。

 

帰る日にお爺ちゃんの家の縁側から庭を見ていたら、お爺ちゃんが飼ってた犬が尻尾を丸めて怯えたように蔵の壁に向かって吼えていた。

 

さらに、犬は気が狂ったように蔵の下の土を掘っていた。

 

その後も犬の様子があまりにもおかしいので、その蔵は解体され、蔵のあった周りの土を1メートルほどの深さを掘って調べてみたが、何も出なかったらしい。

 

翌年、僕は中学生になり、夏休みにお爺ちゃんの家へ泊まりに行くのはやめた。

 

信二の消息は不明のままだ。

 

もう10年も前の話だけれど、未だに信二はどこか別の次元で生きていて、帰れずに彷徨っているような気がする。

 

(終)

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壁越しに聞こえてくる女の声

 

引っ越して3ヶ月、大家のじいさんが亡くなった。

 

すると息子がやってきて、「ボロアパートを新築するから出て行って欲しい」と言われた。

 

貧乏学生だった俺は、当然のようにごねた。

 

「引っ越す金と時間が無い。当分無理」、と。

 

40くらいの息子は条件を訊いてきたので、「似たようなアパートをそっちで手配してくれ。それと敷金に礼金、引越し代金を全て負担するならすぐにでも出て行く」と言った。

 

妥協案を出した早々、その週の土曜日に運送屋がやってきた。

 

そうして、そのボロアパートからちょっと離れた物件に入居することになった。

半年後に精神を病む

木造モルタル2階建て、1DK、ユニットバス付、築30年くらい。

 

外観は今より若干マシ。

 

何よりも、家賃が同じでユニットバス付が嬉しかった。

 

内心、息子と不動産屋に感謝したくらいだ。

 

銭湯通いと共同トイレから解放されたが、コンビニや外食には不便なこともあり、それまで寝るだけだった部屋で過ごす時間が増えた。

 

この部屋なら女の子を招くことも出来るし、金があればデリヘルも呼べる。

 

そんな期待さえ出てきたが、仕送りなしの貧乏暇なし生活が変るはずもなく、彼女などは儚い夢に過ぎなかった。

 

相変わらずバイトと学校で毎日クタクタ。

 

だが引越して以来、休みの日は外出もせず部屋で過ごすことも多くなった。

 

そんなある休日。

 

部屋で試験勉強をしていたら、壁越しに女性の笑い声が聞こえてきた。

 

角部屋の隣人はサラリーマン。

 

ほとんど不在で、これまで話し声はおろか、テレビの音さえ聞こえてきたことはない。

 

見た目は普通の30代前半の、彼女がいてもおかしくない感じ。

 

俺は勉強よりも隣人がやるであろう行為が気になり始めた。

 

男と女が部屋に居れば、いつ始まってもおかしくない。

 

思い余った俺は壁にコップを押し当て、耳を澄まして気配を窺った。

 

物音はせず、なぜか甲高い女の笑いしか聞こえない。

 

後に気が付くが、それが事の始まりだった。

 

その日から一週間くらいして、夜になり再び女の声が漏れ聞こえた。

 

俺はそっと部屋を出て、外から全ての部屋をチェックした。

 

22時過ぎくらいだったと思うが、隣も下も部屋の明かりは消え、人の気配は無かった。

 

平日なら大体隣人が部屋にいる時間帯だったが、ドアの開け閉めくらいしか聞こえてこない。

 

みんな他人の迷惑にならないよう、ひっそり暮らしている感じだった。

 

アパートは最寄の駅から徒歩20分以上、まさに閑静な住宅地で、時々人恋しくなることもあるくらい静かだった。

 

一体あの声はどこから聞こえてくるんだ?

 

気になって仕方がなくなった頃には、3日おきくらいに女の笑い声に聞き耳を立てていた。

 

住人に女性は一人もいない。

 

それがどこから聞こえてくるのか、誰なのか、そして何を笑っているのか、俺は半年後に精神を病んだ。

 

いつしか女の笑い声はせつない喘(あえ)ぎ声に変り、俺は眠れなくなっていた。

 

もう壁に耳を当てる必要もなかった。

 

女の声は俺の頭の中で聞こえ、俺の名前を囁き、俺を誘惑するようになった。

 

しかし、恐怖は全然なかった。

 

ずっと夢だと思っていたし、女の呼ぶ声で眠りに落ちるようになっていた。

 

やがて学校やバイト先でも睡眠不足からミスが重なり、数人の友人が気にかけてくれるようになった。

 

そのうちの一人が、「最近彼女出来たやろ。やり過ぎは気を付けろよ」と、目の下に出来たクマを笑った。

 

最も仲の良い友人からは、「どこで知り合ったんだよ。今度紹介しろよ」と言われ、俺はこう答えたそうだ。

 

「紹介はちょっと無理かな」

 

俺は覚えていないが、はっきりとそう言ったらしい。さらに・・・

 

「彼女は39歳の会社員で、ずっと勤務先の男と不倫を繰り返してきたんだ。やっと独身の男と知り合えて、結婚まで決めてたけど捨てらたんだ。年はいってるけど凄い美人だよ。会社の受付嬢や秘書をやってたくらいだから」、と。

 

友人は驚いて、さらに訊ねたという。

 

「どうやって彼女にしたんだ?てか、写真とかないの?」

 

この時の俺は笑みを浮かべ、うっとりしとた表情だったらしい。

 

「だから無理だって。彼女は首吊って自殺したんだよ。ずっと前に死んでる。あと、知り合ったのは今住んでる部屋でだよ」

 

俺は友人によって命を救われたようだ。

 

けれど、今でも最愛の彼女を失ったような気がする。

 

(終)

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