超怖 7巻

寝ていると何かが布団に入ってきた

 

2年くらい前の事。

 

当時、3年ほど同棲していた彼女がいたのだが、その彼女と新しくマンションを借りて引っ越した。

 

俺は霊感など無いし、霊や宇宙人すら信じていなかった。

 

ある日、寝室のベットで寝ていると、誰かが布団の中に入ってきた。

 

「ああ、彼女が来たんだな・・・」ぐらいにしか思わなかった。

 

ちなみに、当時の俺は水商売を経営していて、帰りは朝が当たり前だった。

 

そして、彼女は昼間の仕事をしていた。

 

それで“違和感”を感じた。

 

俺が寝ている時間、彼女は仕事に行っているはずだ、と。

ずっと恐怖は感じていた

目を開けると、ベッドには誰も居なかった。

 

もちろん彼女は仕事に行っていた。

 

「夢でも見たのか・・・」と思い、さほど気にはしていなかった。

 

またある日、寝ていると今度は犬がベットに入ってくる感じがした。

 

犬を飼っているので、「ああ、飼い犬が入って来たな・・・」と思っていた。

 

また”違和感”を感じた。

 

当時、犬部屋用に一部屋潰して使っていた。

 

犬部屋はレバーで開けるタイプのドアなので、犬が自ら開ける事は出来ない。

 

「彼女が入れたのか?」

 

いや、今日は彼女が仕事に行くのを見送っている。

 

目を開けると、やはり犬は居なかった。

 

酒も飲んでいたし、「変な夢でも見たんだ・・・」と言い聞かせていた。

 

それからは頻繁に、女と犬は現れるようになった。

 

目を瞑っているのに、なぜか”女”という感じは分かっていた。

 

顔はボヤけて分からないのだが、髪が長くて白い服を着ている。

 

布団に入らない時もあり、ただ俺のそばに立っている事もあった。

 

犬はいつもジャンプしてベットに入ってきて、俺の上に飛び乗る感じだった。

 

また、彼女が実際に横で寝ている時もあった。

 

女や犬に何かをされる訳ではない。

 

でも、ずっと恐怖は感じていた。

 

必死に、目を開けよう起きようとしても、出来ない事もあった。

 

わずかに動く手で、「彼女に起こしてくれ・・・」と頼んだこともあった。

 

が、声も出ないし、腕も彼女に少し触れる程度しか動かなかった。

 

なんとか必死に目を開けると、そこは何も変わらない寝室。

 

だけど、もう一度眠ると同じ事が起きる。

 

女か、犬が来る。

 

同時に来る時もある。

 

彼女には怖がらせない為に、「女や犬が入ってくる夢を見るんだ~」としか教えていなかった。

 

こんな現象が3日に一度、1日に四度も見る日もあった。

 

霊など全く信じていない俺でも、少し怖くなっていた。

 

ある日、俺が仕事に行っていた時に、彼女が友達を呼んだらしい。

 

その友達は自称霊感が強いらしく、うちのマンションの駐車場に着くなり、「うわっ!ここ酷いね。大丈夫?」なんて言っていたと聞いた。

 

霊など信じない俺は、「アホくさ」と言って笑っていたが・・・。

 

そんな現象が3ヶ月ほど続いていた頃、俺は仕事に行こうとシャワーを浴び、髪の毛を乾かしている時にインターホンが鳴った。

 

「こんな夜中(夜11時頃)の時間に誰だ?」と出てみると、警察だった。

 

話によると、下の階の住人が連絡が取れなくなり親が不動産屋に連絡を入れたところ、心配になり部屋に入ってみたら亡くなっていたそうだ。

 

女性の一人暮らしだったようで、「最後に見たのはいつか?」、「彼氏らしき男は見なかったか?」などを訊かれた。

 

俺は、「女が3ヶ月ほど前に犬を散歩させていたのを見たが・・・」という話を警察にしていた。

 

後から聞いた話によると、その女性は病死だったようで、他殺や自殺では無いという。

 

事件性も無かったので、新聞にも載らなかった。

 

それからしばらくして、なぜか女や犬を見なくなった。

 

よくある話で、「女が気付いて欲しかった・・・みたいな事かな?」なんて、怖がりながらも自己解決していた。

 

そして色々あり、5年に及ぶ同棲生活も破局し、俺は一人暮らしになった。

 

元彼女は新しい男と別のマンションで同棲を始めていた。

 

そんな頃、久し振りに元彼女から電話がかかって来た。

 

「あんたが見るって言ってた女や犬が入ってくる夢って、女は髪が長くて・・・服が・・・こんな感じじゃない?」みたいな事を訊いてきた。

 

俺が見たものと、ほぼ同じだった。

 

どうやら新しい男がそんな夢を見るらしい。

 

俺が見なくなったのは、良く考えると彼女と別れてからだった。

 

もしかしてあの女や犬は、下の住人の女性ではなく、元彼女に憑いていたのか?

 

それとも、元彼女に付いて行ったのかも知れない。

 

今では元彼女は結婚してしまい連絡も取らなくなったが、旦那はまだ夢を見ているのだろうか・・・。

 

(終)

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家賃がたったの月々7千円なワケ 2/2

前回までの話はこちら

以下、大家さんの話。

 

今から6年前までは、このアパートも新築同様で住民も沢山いたんだ。

 

家賃も、他の普通のアパートとほとんど同じだった。

 

俺もアパートの大家っていう仕事に生き甲斐を感じていたし、自分なりに色々頑張っていたよ。

 

ある日、一人住民が引っ越して別のアパートに住む事になったもんで、部屋に一つ空きが出来た。

 

空きが出来てから数週間後に、その空き部屋に女が越してきた。

 

その女は異常なまでの動物愛好家で、アパートの部屋で猫やら犬は勿論、どこから拾ってきたのか、ウサギやタヌキなんかも飼っていた。

 

分かっていたら最初から住まわせなかったけど、ある日突然急に飼い始めてな。

 

俺も大家として最初のうちは注意したよ。

 

「ここで動物を飼ってもらっては困ります。どうしても飼うというなら出て行ってもらいますよ」ってね。

 

でもその女、俺が注意する度に「じゃあこの子達をどうすればいいんですか!捨てるんですか!?そんな事するくらいなら死んでやる!!」って怒鳴り散らしてね。

 

手に負えない訳よ。

 

当時の俺は甘かったせいもあって、隣の住民から苦情が出たら強制的に出て行ってもらおうとか考えていた。

 

まあ案の定、その女が越してきてから3週間と経たないうちに苦情が出てな。

 

あんだけ動物飼ってりゃ、まあ当たり前だ。

 

約3週間ももったのが逆にすごいよ。

 

で、すぐに出て行くよう説得に行ったよ。

 

今度はかなり厳しくな。

 

「出て行かない場合は法的手段を取らせてもらう」って。

 

そしたらその女、発狂してのたうち回ってね。

 

しばらくしたら静かになって、「分かりました」って言ったんだ。

 

「3日経っても出て行かない場合は、分かってるね」って念を押して、その日は女の部屋を後にした。

 

でも3日経っても女が出て行く様子が全く無い。

 

それでまた部屋に押しかけた。

 

でも鍵が掛かっていてドアが開かないから、合鍵で無理矢理に開けた。

 

そしたらどうなっていたと思う?

 

その女、部屋で首吊ってやがった。

 

あんだけ沢山いた動物も逃がしたのか知らないけど、キレイさっぱり居なくなっててね。

 

女の死体の足元に遺書みたいなのがあって、俺に対しての悪口やら、隣の住民の悪口やらが色々書いてあった。

 

まあすぐに警察に通報したよ。

 

大家として結構事情聴取されたけど、まあ死体を見れば自殺だって一目瞭然だわな。

 

女のこれまでの行動とかも細かく話して、警察も俺や隣の住民に同情していたな。

 

まあ特に大層な事も無く、キチ○イ女の自殺ってことで終わった。

 

大量の動物の行方については警察もちょっと調べたらしいけど、結局は分からんままでな。

 

君の話を聞いてようやく分かったよ。

 

まさか押し入れの床下だったとはね・・・。

 

警察もまさか床下に大量の動物が埋まってるなんて思わなかったのかな。

 

まあ実際、動物についてはどうでもいい感じだったし。

 

床板を張り替え前と後で全く同じ様にするなんて、あの女も手の込んだ事をするな。

 

それで、女が死んでから1週間後くらいに、アパートの住民全員から不思議な苦情があってな。

 

なんでも、冷蔵庫の中の食材なんかが、買って来たばかりの物まですぐに腐っちまうらしいんだ。

 

『原因不明』。

 

まさにこの言葉がお似合いだった。

 

そんな事が何度も続くもんだから、住民がどんどん出て行ってね。

 

最終的には住むもんが居なくなった。

 

住むもんが居ないって事は、アパートの経営が難しいって事。

 

家賃を相場よりも馬鹿みてえに安くして、なんとか経営を続けさせようとしたんだがな。

 

家賃に目がくらんで来る奴は沢山いたが、みんな2週間と経たないうちに出て行きやがる。

 

みんな出て行く前に言うセリフは、「腐る」、「カビが・・・」、これがほとんどだったね。

 

そう、今の君みたいにな。

 

ちなみに余談だが、君が住んでいたのはその女が自殺した部屋だよ。

 

まあそれで、いくら安くしても出て行かれる。

 

そのうち本気で生活が苦しくなって、アパートの大家以外に仕事を探さないといけなくなった。

 

なんとか職探しして、今はパチンコ屋の正社員さ。

 

給料もそこそこ良い。

 

現役で大家していた頃よりは少ないけど、充分に暮らしていける。

 

ま、そんな感じだな。

 

ただ、アパートに人が全然住まなくなってから、変な植物が沢山生えやがって、今じゃ全体を覆い尽くしている。

 

これも、あの女や動物達の怨念かも知れん。

 

それにしても、やっぱり人の死体ってのは恐ろしいもんでな。

 

あの女の死に顔、忘れられんのよ。

 

舌をだらっと突き出して、目が完全に白目剥いててな。

 

トラウマもんだぜ、ありゃぁ。

 

まあ、結局は自業自得だけどな。

 

そう言い終えて、大家さんは笑った。

 

俺は大家さんに、「まだアパートの大家を続けるんですか?」と訊いた。

 

「多分もう君が最後の住民だろうし、辞めようと思う。何より儲からんしな」

 

そう言って大家さんはまた笑った。

 

そして最初に会った時と同じ様に、うちわを扇ぎながら奥へ下がっていった。

 

俺はその後、初めに紹介された家賃3万2千円のアパートに住む事になった。

 

少し苦しかったが・・・。

 

20歳になる頃には正社員にもなり、安定した収入が得られるようになった。

 

現在24歳。

 

まだ家族は居ないが、頑張って生きている。

 

仕事の帰り、通勤電車に揺られながら時折大家さんの事が頭をよぎる。

 

あの出来事から6年経った今でも、喉に刺さった骨のように、折に触れてあの記憶が蘇る。

 

笑いながら奥へ下がっていった大家さんの後ろ姿。

 

その背中に寄り添うようにして、しがみ付いている女。

 

大家さんが後ろを向く時、確かに目が合った。

 

その目は冷たく、無機質に笑っていた。

 

(終)

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家賃がたったの月々7千円なワケ 1/2

 

俺は18歳の時、父親に耐え切れなくなって家を飛び出した。

 

昔から酒癖は悪かったが、俺が13歳の時に母親が脳梗塞で他界してからというもの、さらにそれは激しくなった。

 

毎日のように暴力を振るい、怒鳴り散らす。

 

挙句、仕事から帰って来ては酒に溺れていた。

 

そして父親は1年前に仕事を辞め、残った金をパチンコやら競馬やらで使い、それらに勝った金で酒などを買い生活していた。

 

ただ、それでも俺の学校(高校)の学費だけは出してくれていた。

 

その部分と、今まで育ててくれた事には父親に感謝したい。

 

出て行った理由として、毎日の理不尽な暴力と罵声、そして最後のこのセリフ。

 

「もうお前なんて息子でもなんでもねえ!縁切るからとっとと出てけ!」

 

普通に家で勉強していただけなのに、こんな事を言われたら、たまったもんじゃない。

 

これで何かが吹っ切れたのかも知れない。

その部屋での生活がスタートした

高校を卒業して数日が過ぎた頃、荷物をまとめて家を出た。

 

祖父は俺が2歳の時に、祖母は俺が5歳の時に亡くなっている。

 

だから実質、俺は18歳にして家族という存在を全て失った。

 

一人っ子だから兄弟もいない。

 

高校卒業という”最低限の学歴”だけが残った。

 

それに、俺はアルバイトをしていたから、月に7~8万円の収入もあった。

 

しかし家を出たは良いものの、住む場所が無い。

 

その日のうちに不動産屋へ相談しに行った。

 

とにかく安い家賃のアパートにこだわっていたから、「一番安い所はどこですか?」と訊いた。

 

「それなら・・・」と見せられたのが、『家賃3万2千円!』と書かれた比較的キレイなアパートの写真だった。

 

しかし、月の収入が7万円程しかない俺には痛い出費だ。

 

無理を言って、「もっと激安な物件はないんですか?」と問い詰めた。

 

すると、不動産屋の担当者は少し顔を曇らせながら、ウチで紹介できる最も安い物件は・・・。

 

そう言って、今まで俺に見せていた新品同様のキレイなカタログをしまうと、棚の隅からくたびれた一枚の茶色い紙を取り出した。

 

「ここになります」

 

俺が見せられた紙の表には、『家賃7000円、敷金礼金0円』と書かれた文字とアパートの写真。

 

家賃にも驚いたが、そのアパートにも驚いた。

 

建物全体が何だか分からない緑色の植物に覆われている。

 

玄関もベランダも窓も、そのツル状の植物に覆われ、2階建てのそれは『緑の館』と化していた。

 

「凄いっすね・・・」

 

俺がその写真を見た時、最初に出た言葉がそれだった。

 

「最も安いのがここで、これより上となりますと、先程紹介した物件になりますが・・・」

 

迷ったが、背に腹は変えられない。

 

「ここに決めます」

 

俺は渋々承諾するしかなかった。

 

このアパートは、その日のうちに住むことが可能との事。

 

ざっと書類に記入やらサインやらをして、不動産屋の担当者にそこへ案内してもらった。

 

そのアパートは写真で見た通り、得体の知れない植物に覆われていたが、実際に見るとさらに迫力があった。

 

“今から住むのを拒もうとする”、そんな迫力というかオーラみたいなものだ。

 

植物を掻き分けて、なんとか2階の俺の部屋となる入り口の扉に辿り着いた。

 

不動産屋の担当者が伐採用の大きなハサミで、ツルやら葉っぱやらを切り裂いて扉を開けた。

 

ムワッと、湿気とも臭気とも熱気とも似つかないものが一気に漏れ出した。

 

だが、中を見た俺は拍子抜けした。

 

そのアパートの見た目とは裏腹に、部屋の中は悪くなかった。

 

もっと言えば、少し埃っぽいが、ごく普通のアパートの部屋と言っていい。

 

呆気に取られている俺を見て察したのか、不動産屋の担当者が口を開いた。

 

「かなり前に住人が出て行って清掃されてるから、もう誰も住んでいないんです。それにしてもここまでキレイとは、私も驚きました」

 

キッチンなどは勿論、共同だがトイレや風呂も付いている。

 

それに加えて8畳半の広さ。

 

部屋の中の設備も悪くない。

 

なのに家賃7千円とは、どう考えても納得がいかなかった。

 

不動産屋の担当者に別れを告げ、俺のその部屋での生活がスタートした。

 

ちなみに、アパートへ向かう途中、ここの大家さんにはすでに会っている。

 

夏だったせいもあるが、白いランニングシャツにトランクス一枚でうちわを扇ぐ、メタボリックな中年男だった。

 

「ああ、住むの?そうか・・・。まあ頑張って」

 

それだけ言うと、その男は欠伸(あくび)をしながら奥へ下がっていった。

 

アパートの大家以外にも仕事はしているらしく、ごく普通の家に住んでいた。

 

腹が肥えているのが何よりの証拠だ。

 

(こんなヤツが大家とは・・・。あんなアパートだというのも頷ける。というか、頑張れってなんだよ!)

 

俺は心の中でそう思った。

 

出来る限り安いもので家具やら何やらを揃え、なんとかそのアパートの部屋に自分の生活空間を作りあげた。

 

バイト先からそう遠くないという事もあり、外観は最悪だが、内心では良い所に住めたとその時は思っていた。

 

住み始めて数日が経ったある日、冷蔵庫の中の異変に気づいた。

 

昨日買ったばかりの牛乳パックの中身が、妙にドロドロになっているのだ。

 

まるで、日光の下で何日か放置させたかのように・・・。

 

冷蔵庫は別段壊れている様子は全くなかった。

 

その証拠に、他の食材は新鮮そのものだった。

 

首を傾げながらも、もうその牛乳は飲めないため捨てるしかなかった。

 

それからまた数日後、バイトから帰ってきた俺は、何か飲もうと冷蔵庫を開けると驚愕した。

 

冷蔵庫の中の食材が腐っていて、白とも紫とも赤とも似つかないような得体の知れないカビに覆われていたのだ。

 

肉はパックの中に入ったまま、白いサンゴ礁のようになっていた。

 

それらは昨日買ってきた食材ばかりだった。

 

これは一体・・・。

 

しかし冷蔵庫が壊れているという事はなく、開けると冷気が体を包んだ。

 

仕方が無いので、その日はコンビニで弁当や飲み物を買って食事をした。

 

冷蔵庫の中の物は腐りきっていた為、全て処分した。

 

その翌日はバイトが休みだった。

 

快晴だったこともあり、ベランダを掃除して敷布団を干そうと持ち上げた俺は、強い吐き気を覚えた。

 

まるで何年も敷布団をそこから動かさずに放置していたかのように、その裏面にはビッシリとカビが生えていた。

 

黄色いシミのようなカビ、黒いカビ、赤いカビ、緑のカビ。

 

それらが敷布団の裏全体を覆っていた。

 

思わず俺は、その敷布団をベランダから外へ放り出してしまった。

 

もう泣きそうだった。

 

その日は新しい敷布団を買いに行くために出掛けた。

 

もうあまり金の無い俺は、一番安い煎餅布団を買う以外なかった。

 

そして部屋に帰り着き、扉を開けた瞬間、あまりの腐臭に軽い目眩を覚えた。

 

部屋全体を覆う、カビ、カビ、カビ・・・。

 

冷蔵庫の中からは、薄く黄色がかった透明な液体が滴っていた。

 

あまりの異様な光景に、俺は放心状態になっていた。

 

その時、黒色とも緑色とも思えるカビ部屋と化したその空間に、1箇所だけキレイな場所がある事に気づいた。

 

部屋の隅にある、目立たない『押入れ』だ。

 

その押入れの戸だけが妙にキレイなままなのだ。

 

越して来てから一度も開けた事の無かったその押入れが、この凄まじい腐臭の原因の様に思えた。

 

俺は靴を履いたまま部屋にあがると、その押入れを躊躇なく開けた。

 

だが、そこには何も無かった。

 

床の中心部分が紫色に変色している以外は・・・。

 

床板の中心部分だけが楕円状に変色している。

 

俺は意を決してその板を剥(は)がした。

 

板は腐っていた為、簡単に剥がすことが出来た。

 

途端、凄まじい腐臭が鼻を突く。

 

そこにあったものは『大量の動物の骨』。

 

とにかく沢山の動物の骨が床下に敷き詰められていた。

 

なぜ骨がここまでの腐臭を放つのか分からなかったが、俺にはそれが死んだ動物達の怨念のように思えた。

 

冷静になって考えて確かな事は、俺はもうここには住めないという事。

 

そして、前の住人による動物虐待と虐殺があったという事。

 

このアパートの家賃が安かったのも納得だが、理由がこんな事だと知っていたら千円でも御免だった。

 

なんとかまだ大丈夫な荷物をまとめ、俺はこのアパートを後にした。

 

しかし、このアパートについて何も知らないまま去るのも何となく嫌だった為、大家さんの家へ行き、この部屋であった事を詳しく話した。

 

すると、別段驚く様子も無く、「そうか・・・」と言って大家さんは語り始めた。

 

(続く)家賃がたったの月々7千円なワケ 2/2

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携帯電話の代替機を借りたのだが・・・

 

去年、俺の身に実際に起こった話だ。

 

ある時に携帯電話の調子が悪くなり、キャリアの店に持ち込んだ。

 

修理の為に預ける事になったが、「代替機が無い」と言われた。

 

他の店に持ち込もうかと思っていた矢先、一番若い女性の店員が「これ、使えないんですか?」と、一台の携帯電話を持ってきた。

 

俺が修理に出した携帯電話と同じメーカーだったし、こちらとしては都合が良い。

 

ところが、他の店員たちが集まって、何やら相談を始めた。

 

「・・・ホントにいいの?」

「まずいんじゃ・・・」

「もしかして・・・また・・・」

・・・・・・

 

そんな会話がボソボソと聞こえてくる。

 

他の店に改めて行くのが面倒だった事もあり、「少しぐらい調子が悪くても電話が受けれたらいいですよ」と、俺は催促するように話しかけた。

 

結局、その携帯電話を代替機として預かってきた。

店員は何を知っていたのか・・・

経験した人なら分かると思うが、代替機を借りる時には“中身がリセット”されていることを店員と確認する。

 

もちろん、その時も確認して書類にサインをした。

 

ところが、帰宅してから代替機の携帯電話を触っていたら、発信履歴に見慣れない番号があった。

 

それも、日付が半年も前の・・・。

 

携帯電話の日付や時刻の設定は間違っていないし、この代替機から誰にも電話をかけた覚えが俺には無い。

 

何より俺は基本的に”受ける方”が専門に近くて、ほとんどの用事はメールで済ませるタイプだ。

 

気にはなったが、借りる時から調子が悪そうな口振りだったし、このぐらいの事は気にしても仕方ないと思った。

 

そして翌日。

 

借りた代替機に特に調子の悪い部分は無く、俺は知り合いとメールをしていた。

 

やり取りをしている時にちょっとした操作ミスをやらかし、最新の受信メールから一番古いメールに表示が切り替わった。

 

メルマガやら仕事の連絡でメールを頻繁に受信する事もあり、俺の受信ボックスにはせいぜい一ヶ月前のメールしか無い。(保護してあるメールは別)

 

ところが、一番古いメールは見覚えの無いデコメで、それも半年も前のメールだった。

 

※デコメ

デコレーションメールの略で、メールの文字に着色したり、メールに文字以外の静止画像や動く画像を挿入することができるサービスのことです。

 

絵文字も無く、黒の背景にオレンジで、たった一行だった。

 

『ねえ?見えてる?』

 

凄く気になって、『いつ送ったメール?』と返信してみた。

 

案の定、送信完了と同時に”未達”のエラーメールが届く。

 

ところが、それと同時にもう一通のメールまで受信していた。

 

つまり、二通同時に受信していた。

 

一通はエラーメール。

 

もう一通の別のメールには、黒背景にオレンジの文字で一言だけ書かれていた。

 

『今』

 

それから何通かメールをしても、毎回エラーメールが届く。

 

それに伴って返事のメールも届く。

 

やり取りで分かった事は、相手が20代の女性で、一人暮らしをしているらしいということ。

 

興味を持つと同時に、だんだんと気味が悪くなってきて、その日はメールを止めた。

 

翌朝に起きると、メールの着信ランプが点滅していた。

 

いつも寝ている間にメルマガが届くから毎朝の事だ。

 

ただいつもと違うのは、前日にメールした正体不明の相手から、『見えるの?』、『見えてないの?』と交互に数十通のメールも届いていた事だ。

 

さすがに気持ち悪くなり、前日のやり取りも含めた全てのメールを削除し、拒否リストに入れてから仕事に出掛けた。

 

昼飯の時間になって携帯を触っている時、半年前のメールがまだ残っている事を思い出した。

 

黒背景にオレンジの文字のデコメ。

 

正確には”HTMLメール”という。

 

その時、その文字にリンクが貼られている事に気付いた。

 

リンクをクリックすると地図が表示された。

 

見慣れたGooglrの地図。

 

そして、表示されていた場所は【俺の自宅】だった。

 

一気に悪寒が走った。

 

言いようのない嫌悪と恐怖。

 

例えば、俺自身が自宅にいる時にクリックした結果が自宅の地図ならば、現在地を表示するリンクが貼られていたんだなと解釈すればまだ納得は出来る。

 

ところが、今は自宅とかけ離れた場所に居るにもかかわらず、明らかに自宅の地点を指定した地図が表示されている。

 

それも、半年前のメールに・・・。

 

頭がパニックになりそうになっている状態で、気が付くと新しいメールを受信している。

 

『見えた?』

 

黒の背景にオレンジの文字。

 

そしてさらに、とんでもない事実に気付いた。

 

この何者かからのメールには、受信音も通知ランプも点かない。

 

他のメールは通常通りの受信音で通知ランプも点く。

 

メールのやり取りをしているうちは、エラーメールと同時に届くから全く気にしていなかった。

 

無音で気付いたら受信している。

 

『裸だから寒い』

『暗くて怖い』

『誰も来ない』

・・・・・・

 

次々と受信するメール。

 

受信拒否も意味が無い。

 

俺の事を知っている誰かがイタズラしているのかとも思ったが、受信拒否や半年前のメールの説明が付かない。

 

質問すると、返事が届いていたメールは段々と一方的になり、『怖い』、『見てる?』、『寒い』をリピートし始めた。

 

あまりの気持ち悪さに、友人の使わなくなった携帯電話を借りる事にし、この代替機を店へ返却する事にした。

 

店のカウンターで返却の手続きをしてる最中に、未読メールが一通ある事を店員に教えられた。

 

それはまさに今の時刻が刻まれた『独りにしないで』というメールだった。

 

そして、ただただ黒いだけの画像が添付されていた。

 

店員は何かを知っているらしく、妙に顔が引き攣っていた。

 

慌(あわただ)しく店員は代替機をリセットし、手続きを終わらせた。

 

後日談

代替機を借りてすぐに見つけた半年前の発信履歴は、実は顔見知りの携帯番号だった。

 

気になってメモしていたのを知り合いに見せたら、「見覚えがある」と言われて調べてもらった。

 

連絡先の交換はしていないが、顔見知りの女性だった。

 

実はこの女性、半年ほど前から失踪しているという。

 

あの変なメールはそれっきり届かなくなったし、忘れようとしていたが・・・。

 

数日前だった。

 

自分が寝ていたはずの時間に、その番号へ発信した履歴が残っていた。

 

ちなみに、俺は一人暮らしだ・・・。

 

(終)

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