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「デジタル革命で、金融機関の雇用減少は不可避」オランダINGの改革

オランダの総合金融機関、INGグループは、デジタル・バンキングの先駆けとなった「ING Direct」や、915億円という巨額の資金を投じたデジタル組織改革、SNS決済アプリの開発、他国際大手とのネットワークを駆使したアクセラレーター・プログラムなど、老舗FinTechならではの底堅い動きで、「FinTechのアーリー・アダプター(初期採用者)」として知られている。

一方で、経営陣が大手メディアに対しデジタル革命を進めることで自社の雇用減少が不可避であることを語るなど、ドラスティックな動きでも知られる。直近ではテクノロジーへの投資とともに、7,000人という大規模な人員削減を計画していることが報じられた。INGをデジタル化に駆り立てる要因を探ってみよう。

Googleなどにインスパイアされ、IT部門をアジャイル化

(写真=Den Rise/Shutterstock.com)

オランダを発祥地とするINGグループは、世界40ヵ国・地域で4,700万人の法人・個人顧客を相手に、リテールおよび大口業務、モバイル決済からイノベーションまで、幅広い商品とサービスを提供している。

設立当時(1991年)はまだ珍しかった「デジタル技術をバンキングに取り入れる」という発想にいち早く着手し、自他共に認めるFinTechの先駆け的存在となった。1997年にカナダでリテール顧客向けオンラインバンク「ING Direct」を開始し、米国、英国、ドイツなどの欧米諸国で次々と拡大に成功した。

2014年からは、8億ユーロ(約915億円)を投じた大規模なデジタル改革プロジェクト、「Accelerating Think Forward」に着手している。

最も革命的な動きでは、GoogleやNetflixといった国際テクノロジー企業にインスパイアされたという、IT部門のアジャイル化があげられる。アジャイル・インフラの構築は、ITへの取り組みの一環として金融・保険機関でも常識となりつつある。

長年にわたり金融機関が頭を悩ませてきた、既存のシステムでは最早対応しきれない複雑な問題を解決するうえで、高度なデジタル・ソリューションは必要不可欠だ。例えばデータ管理をアジャイル化することで、銀行システムに蓄積された膨大なデータを効率的に処理することが可能になる。

シュラットマンCIO「改革とは継続的なもの」

INGのデジタル改革は組織内部という枠組みを超え、顧客へのサービスにも及んでいる。ドイツではすでにバンキングを完全デジタル化させている他、決済スタートアップ、iDealと提携し、WhatsAppやFacebookといったSNSから決済可能なアプリ開発に挑戦している。

このアプリでは2016年8月から2ヵ月間、ミレニアム世代を対象にテスト運転を実施し、SNSやメールからワンクリックでiDealの支払い画面に誘導、即決済という、利便性とスピードを追求した。実用化まであと一歩といったところだろう。

INGのバート・シュラットマンCIOは、過去10年にわたりINGが改革に取り組んでいること、改革とは継続的なものであるべきことを強調している。

2015年、アジャイル化に着手した際、取り急ぎ、他に向上すべき事項は見当たらなかったという。しかしINGのデジタル化に対する顧客からの期待が高かったことが、継続的な改革の後押しになった。

16週間の集中アクセレーター・プログラム「FinTech Village」

新たな商品・サービス開発手段として、今やすっかりお馴染みとなったアクセラレーターでは、「FinTech Village」を開催している。16週間の集中型プログラムを通して、スタートアップに人生の転機となる大きなチャンスを与えると共に、各企業の理想とするビジネスモデルを構築し、実現に向けたソリューションを提供する。

Deloitte、IBM、SWIFTなどとの提携のもと、一流の国際ネットワークを駆使し、常に先進的なアプローチを志すことで、既存のアクセレーターと一線を画している。

第2回目となる2017年の応募は、F6S(https://www.f6s.com/)というアクセレーター・プラットフォームから受け付けている。

デジタル化に伴う大量リストラ時代に突入?

INGのデジタルを極める熱意は高く評価すべきだが、野望達成の裏側では、ベルギー、オランダを中心とした従業員7,000人の大量リストラという代償が、社会に波紋を投げかけている。

一連のデジタル化は顧客経験の向上と同時に大幅なコスト削減を狙った決断だ。この一大改革により、2021年までに9億ユーロ(約 1,000億円)の人件費・経費削減を図る意向を表明している。

FinTechの跳躍と共に、金融機関がリストラ時代に突入した感は否めない。INGだけではなく、ゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェース、ドイツ銀行などの大手が、続々と何千人規模の人員整理を繰り広げている。「デジタル改革=リストラ」という図式が、近年のインフラモデルとして確立されてしまった。

それに加え、AI(人工知能)やロボットの出現が、労働市場に多大な影響を与えようとしている。

デジタル化は最早、事業存続を賭けた欠かせない要素となっている。今後、人材とテクノロジーの バランス配分は、金融機関だけではなく多くの企業にとって、デジタル改革に伴う課題の一つとなるだろう。(提供:MUFG Innovation Hub

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人工知能はコンピュータウイルスの発見に乗り出す 情報セキュリティ分野での革新

2017年5月上旬、「ランサムウェア」と呼ばれるコンピュータウイルス(マルウェア/不正プログラム)のニュースが大きく報じられた。情報セキュリティのあり方が大きくクローズアップされ、ウイルスが身近な問題になり得る危険性を改めて世界中に示した出来事だったと言えよう。

そうした中、アンチウイルス技術に人工知能(AI)が活用され始めている。その威力は絶大なものになり得るそうだ。AIがどのようにアンチウイルス技術に活用されているのかを解説する。

アンチウイルスだけでは不十分なマルウェア対策

(写真=ranjith ravindran/Shutterstock.com)

AIとして広まっている機械学習の中でも、大きな技術的ブレークスルーとなっているのがディープラーニングだ。ディープラーニングの発展により、画像認識の技術や囲碁をはじめとしたゲームを戦うプログラムが大きく進化してきた。

この構図は、どうやらアンチウイルス技術についてもあてはまりそうなのだ。その理由は、サイバー攻撃の現状と、従来技術の限界にある。

例えば、現在のサイバー攻撃は90%以上の割合でマルウェアを活用しており、約5秒に1回の速さでマルウェアを使って何らかの攻撃を仕掛けているという。企業への攻撃に使われるマルウェアの70~90%が攻撃対象になった企業に対してしか使われていない。このような攻撃方法でサイバー犯罪者のシステムへの侵入を許してしまったケースの場合、1分以内に入り込まれていたという。

そうした中で従来のマルウェア検出技術は、シグネチャと呼ばれるマルウェアの特徴についてのデータをリスト化しそれを活用して検出していたが、そこには限界もあった。新たなマルウェアが登場すれば、それに対応したシグネチャを用意しなければ機能しないということになる。

言い換えれば、シグネチャが用意されていないマルウェアは検出されず、新たなシグネチャを作成しマルウェアの特徴を把握するまでは検出できないのだ。しかし目まぐるしい速さで進化し、ターゲットに合わせてカスタマイズされるマルウェアをとらえ切れるだろうか。

またサイバー犯罪者らがアンチウイルスを回避しようとするためにつくられた、大量のマルウェアの存在も指摘されている。シグネチャによる検出を回避するために、マルウェアの内容を少しだけ変え、大量の派生マルウェアを作り出すことで、シグネチャベースのマルウェア検出を回避しようとする試みだ。

このような理由から、従来のアンチウイルス機能でのマルウェアの検出には限界があると指摘されてきた。そのためより効果的な対策が必要とされてきたのだ。

AIがマルウェアの侵入を徹底的に防御する

この状況を解決する施策として、AIのアンチウイルスへの応用がにわかに持ち上がっている。マルウェアの構造をAIに解析、学習させるのだ。そんな取り組みを進める1社が、米国のセキュリティソリューションベンダーであるCylance社だ。

Cylance社のディープラーニングを用いたAIによる分析では、データ内の注目すべき点となる特徴量を数多く抽出し、その分析から有意な知見を生み出しているという。マルウェアの解析でAIは、ファイルのサイズやファイルのヘッダ情報、文字列などを特徴量として使用するそうだ。また約5億個にも上るマルウェアをAIに学習させることで、マルウェアの確かな検出を推進している。

シグネチャの作成に必要な時間から生じるマルウェアの登場と、有効な対策の登場の間のタイムラグをなくし、99.9%という高い検出率も実現した。

アンチウイルスを回避するために大量のマルウェアを作り出してきたサイバー犯罪者の手法に対して、AIの先端技術がソリューションを提示している。一般的に2020年までは各産業や領域においてAIの利活用が進む、と言われているが、セキュリティ技術にもまさにその波が押し寄せていると言えよう。(提供:MUFG Innovation Hub

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IoT社会の「縁の下の力持ち」を期待される「エッジコンピューティング」とは?

オフィスのデスクトップPCでクラウド型サービスを使って事務作業をしていても、自宅でくつろぎながらスマートフォンで動画を視聴していても、裏側ではサービス提供者にあたるコンピュータが何らかの処理を行っている。

こうしたサービスの多くは、データセンターに集約された巨大なサーバー群によって処理が行われているだろう。しかし今、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の普及により分散型の「エッジコンピューティング」の活用を提唱する声が広がっている。

集約型から分散型のエッジコンピューティングへ移るコンピュータ基盤

(写真=chombosan/Shutterstock.com)

IoTの普及により、コンピューティング処理を行う場所はどのようにシフトしているのだろうか。

まず、現在では広く使われるようになりつつある「クラウドコンピューティング」のモデルを見てみよう。クラウドコンピューティングはIT・システム運用基盤を厳しい基準に従って構築してきた金融機関でも採用されるなど広く浸透してきており、主要なIT基盤の地位を得つつある。クラウドコンピューティングにおいて、処理はどのような場所で行われているのだろうか。

例えば、米AmazonのクラウドサービスであるAWSでは、日本国内であれば東京と大阪にあるAWSのデータセンターを利用できる。つまり、AWSを使っている企業は、自社のオフィスなどに設置したパソコンやサーバーといったコンピュータリソースではなく、地理的に社外に位置する場所で計算処理を行っているということになる。

このようにクラウドコンピューティングがインターネットを介して、遠隔地にある大規模なデータセンターで計算処理をする一方で、エッジコンピューティングはユーザーにより近い場所でコンピューティング処理を実行するモデルだ。

つまり、ユーザーのデバイスとインターネットクラウドの「境界(エッジ)」で、コンピューティング処理を行うやり方だと言えるだろう。

自動運転車・IoTから次世代ネットワークまで広がるエッジコンピューティングの応用先

エッジコンピューティングのモデルは、自動運転車やIoTの実用化への期待が高まるにつれて導入への後押しの声が広がっている。例えば自動運転車は、スマート化する交通インフラとの連携といった活用方法が提案されており、その際にエッジコンピューティングを応用する余地があるとみられているのだ。

具体的には、道路上の事故車両の有無や障害物を道路に近接したインフラに設置したデバイスで検知し、その近くを走行する自動車に知らせる、などの構想だ。この構想を実現するためには、障害物をすばやく検知して付近を走行する自動車にすぐに知らせる、などの処理が必要となる。

従来のクラウドコンピューティングの様に遠隔地のコンピュータの計算能力を使用する場合には、通信や計算処理そのものに時間がかかる恐れがあり、円滑な運用に支障をきたしかねないのだ。そのため近接地で小型のエッジサーバーによる処理を行う、というものだ。

ちなみに自動運転車に道路上の障害物の情報を知らせる用途の場合には、移動体(携帯電話など無線端末)通信基地局に、非常に小型化したデータセンターを設置して計算処理を行うといった実現方法が提案されている。

クラウドコンピューティングと組み合わせた活用も

また、クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングを組み合わせ、処理の遅延が大きな問題にならない領域については従来のクラウド基盤上で処理を行うといった役割分担も可能で、一つの方法として注目されている。

IoTのサービスが普及し、自動運転車など人々の生活と密接に関わるサービスが実現されるにつれ、裏側のコンピューティングの仕組みも変化していくのだ。デバイスや処理技術の発達が今後も見込まれると言えるだろう。(提供:MUFG Innovation Hub

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NVIDIAのモンスターGPU「Tesla V100」は、自動運転の未来をどのように変えるのか?

ディープラーニングの火付け役

(写真=DigitalPen/Shutterstock.com)

日本国内のニュースでも大きく取り上げられ、今やAI市場を牽引する企業のひとつとなったNVIDIA(エヌビディア)。確かに数年前までIT業界以外で話題に上ることが比較的少ない企業ではあったが、実はディープラーニングが脚光を浴び始めた2013年頃から現在に至る「第3次AIブーム」の陰の火付け役であった。

ディープラーニングは、脳の神経回路を模したニューラルネットワークを多層的に用いることでAIに自律学習をさせるアプローチである。ニューラルネットワークの研究自体は1950年代から始まっていたが、2006年にジェフリー・ヒントンによって提唱されたアルゴリズムであるオートエンコーダーがディープラーニングの原型となった。

しかし、それを活用したAIを実現させるためには深層学習モデルであるディープニューラルネットワークに読み込ませたビッグデータを高速に並列処理するシステムが必要である。その鍵となるのが半導体の処理速度であった。

NVIDIAは早い段階からディープラーニング向けのGPU(グラフィック処理ユニット)を開発していた。大量のグラフィックス処理や演算処理を同時に行うことのできるGPUは、ディープラーニングの開発に不可欠である。2016年にはディープラーニングに最適化させたTesla P100とともに、Tesla P100を8基搭載したディープラーニング向けのスーパーコンピューターDGX-1を発売。日本円に換算すると1台約1,400万円という高額にもかかわらず、生産が追いつかないほどの売れ行きとなった。

1年間でディープラーニングの学習性能を12倍に

そして2017年5月10日(現地時間)、米国カリフォルニア州サンノゼで開催されたGPU Technology Conference 2017(GTC 2017)にて、NVIDIAのCEOジェン・スン・フアン(Jen Hsen Huang)は 、Voltaアーキテクチャを採用した初のディープラーニング用GPU「Tesla V100」を発表した。V100はディープラーニング用に4×4のマトリックス演算を行う「New Tensor Core」640基を内蔵し、ディープラーニングの性能は最大120TFLOPSに達する。これは現行モデルP100の12倍の学習性能である。

DGX-1の後継モデルDGX-1 with Tesla V100には、Tesla P100に代わりTesla V100が8基搭載される予定だ。DGX-1 With Tesla V100は960 Tensor TFLOPSの演算性能を持ち、フアン氏によればディープラーニングにおいてサーバー400台分の処理能力を持つという。これによってTitan Xで8日間かかっていた処理が僅か8時間でできるようになる。前年のPascal世代のDGX-1を発表した時点では、従来なら数ヵ月間かかっていたニューラルネットワークトレーニングを数日でできるとしていたので、NVIDIAの半導体技術の発展速度には驚かされるばかりである。

同時に発表されたXavierは、ディープラーニングにおける推論で多用される次世代SoCであり、30ワットの低電力で毎秒最大30兆回の演算を行うことができる。こちらはクラウドとの連携機能を備える自動運転車向け車載AIコンピューター「DRIVE PX」に搭載される予定だ。

また一歩実現に近づく完全自動運転

今回発表されたこの一連の技術が自動運転の発展にもたらす影響は大きい。なぜなら、自動運転車が実用的で安全なものであるために最も大切なことは、標識や障害物、歩行者、車線や交通の規制、速度制限などの認識をディープラーニングによって高速処理をし、的確な判断をしながら自律学習することだからである。

フアン氏は、講演の終盤でトヨタ自動車に「DRIVE PX」を提供すると発表した。このプラットフォームでは、クラウド上で高速処理されたニューラルネットワークトレーニングによって得られるモデルを、車載端末でリアルタイムに実行することができる。端末となる車載AIコンピューターの処理速度が上がることで、端末とクラウド間の情報のやりとりが効率的になり、瞬時に適切な判断ができるようになる。

NVIDIAは既にフォルクスワーゲングループに属するアウディ、メルセデス、ボルボ、テスラモーターズと契約をしている。今回5社目となるトヨタと契約をしたことで、自動車業界における同社のプレゼンスがいかに大きいかを世界に知らしめたことになるだろう。そして、大手5社の端末から得られるビッグデータによって、NVIDIAの自動運転プラットフォームは飛躍的に進歩することが予想される。自動運転4段階の最終段階である、車両の完全自動制御の実現がまた一歩近づいたと言えるだろう。(提供:MUFG Innovation Hub

【編集部のオススメ MUFG Innovation Hub記事】 ・ペアトレードの新たな武器になるカブドットコム証券&アルパカの「AI」ツールMUFG Digitalアクセラレータ第2期/日本橋兜町のオープンイノベーション拠点 “The Garage”磁気ストレージが変わる?原子1個に磁気を記録する技術誕生言葉の壁と機会損失の解消。インバウンド需要を捉えるTravelTechとは民泊の宿泊先を決めるのは「レビューよりホストの顔」

磁気ストレージが変わる?原子1個に磁気を記録する技術誕生

IT技術の更なる活用に欠かせないインフラとして、大規模なデータを高速に分析し、新たな知見を生み出すビッグデータの手法や、技術的な基盤の整備が進んできた。

パソコンやスマートフォンの普及により、取り扱われるデータの量は急激に増加している。企業ではもちろん、個人でも写真や音楽のデータをパソコンやスマートフォンに保存している人がほとんどだろう。それに伴い、データを保存しておく「ストレージ」にも進化が求められている。

現在、ストレージのなかでも原子1個ずつにデータを記録することのできる技術に注目が集まっている。

磁気ディスクからフラッシュメモリに進化してきた「ストレージ」

(写真=Sergey Nivens/Shutterstock.com)

そもそも身近なシーンで、どんなストレージが活躍してきたのかまずはみてみよう。最たる例は、かつては大部分のパソコンで採用されていたハードディスクドライブ(HDD)だろう。

HDDは円盤に磁気を記録することでデータを保存する。ディスク上には、磁気を記録できる微細な粒子が大量に並んでおり、その磁化方向を切り替えてデータを記録するテクノロジーが基礎になっている。

他方で、最近ではフラッシュメモリを応用したソリッドステートドライブ(SSD)と呼ばれるストレージも広まってきており、ノートパソコンの薄型化にも貢献してきた。もしかすると、HDDよりも身近なストレージといえるかもしれない。

フラッシュメモリにデータを記録する方法は、HDDディスクへの磁気の書き込みと読み出しとは異なり、フラッシュメモリの最小の記録単位となる「セル」を利用して、データを保存する仕組みになっている。そのセルは電子を保持することができ、セルに貯まった電子によってデータや情報を記録している。

ちなみに、HDDからSSDに進化することで、ストレージ内部の構造も大きく変わってきた経緯がある。HDDは内側に磁気を記録できる円盤を備えていた一方で、SSDでは電子回路に複数のチップが実装された形状をしている。

次のストレージ技術は原子1個への磁気記録

ストレージの技術そのものは、さらに大きな進化を遂げそうな勢いをみせている。その「究極」の形ともいえるのが、原子にデータを記録する方法だ。

実際、磁気を記録する素子を微細化する研究がかねてから進展してきており、1993年にはすでに単一の分子の磁気を操作可能にする研究成果が公表されていた。さらにIBMが2012年に12個の原子に1ビットのデータを記録する技術を開発したことを明らかにしたことで、磁気データを記録する技術の高度化、微細化が深化してきていた。

その究極形ともいえるのが、単一原子への磁気の記録で、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のFabian D. Natterer氏の研究チームが2017年3月にこの単一原子への情報の記録を実現したことを公表した。

Natterer氏らの発表によれば、ホルミウム(元素記号:Ho)を酸化マグネシウム上に配置した状態で、磁気を記録したりそれを読みだしたりできるという。つまり、磁気を記録する物質の大きさを原子1個の規模にまで極小化させられるという現実的な可能性が示されたことになる。

ただし、ホルミウム原子1個に磁気を記録する技術的な成果がすぐさま、単一原子からなる記録媒体を実現するわけではない。この技術には課題ももちろん多いのだ。

Natterer氏らの研究ではあくまで、真空状態のような極限ともいえる状態での実験だったことに加えて、磁気を記録できたのはごく限られた時間に留まっており、日常的なデータの保存方法として利用するには条件が整っていない。

現時点では、長期間にわたってデータを保存し続ける用途にはまだまだ応用できない。磁気を使ってデータを保存するという点で、フロッピーディスクやVHSビデオなどの磁気テープのように保存するためには、今後のさらなる研究の推進と技術開発が必要となるだろう。(提供:MUFG Innovation Hub

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AI貯蓄アプリ「Oval Money」ロボットが伝授する貯蓄・投資術

「Oval Money」とは、ミレニアル世代を意識した世界初のAI貯蓄アプリだ。クラウドとAIの技術を融合させ、顧客の支出パターンを学習しながら自動的に貯蓄や投資のアドバイスを行ってくれる。

社会構造の改善とともに、経済構造をインクルーシブ(包括的)な方向に転換させるという試みが、FinTechの跳躍により広がりをみせつつある。

支出分析から専門家による節約アドバイスまで

(写真=Sunny studio/Shutterstock.com)

優秀な家計簿アプリが続々と登場している近年、クレジットカードや銀行口座にリンクさせておけば、自動的に支出を管理してくれるという機能自体は、特に目新しいものではない。

Oval Moneyの斬新さは、機械学習技術によって「何のためのどのような支出か」を割り出し、カテゴリー化してくれるところからはじまる。このカテゴリーに基づいて、自分の支出傾向を即座に分析できるのだ。

自らの収入と支出を把握することは、貯蓄をはじめるうえでの基礎となる。「知らない間に財布が空になっている」という、貯蓄の進まない典型的なタイプの人であればなおさらだ。

Oval Moneyは継続して利用することで、AIが支出パターンを学習する。データ分析やパーソナル・ファイナンスの専門家が収集した最先端の貯蓄情報に基づき、AIが個人の支出スタイルに合わせた節約アドバイスを提供してくれる。

例えば、支出データから「過去半年は旅行が多かった」という分析結果がでた場合、「ここで○○を利用しておけば、週12ポンド節約できた」など、日常生活で即実践できる節約法を知ることができる。

「知らない間に貯まってる」が成功の秘訣?

支出傾向と節約法を把握したら、次は「貯蓄」だ。「Oval Money」では3種類の貯蓄法から最適なものが選べる。 「切り上げ貯蓄」は自動的に支払い金額の端数(ペンス)を別のウォレットに移してくれる、いわゆる小銭貯蓄アプリだ。 「パーセント貯蓄」は支払い金額の一部を貯蓄に回すという割合型貯蓄法で、何%貯蓄に回すかは自分で設定できる。例えば2%と設定しておけば、1万円の支払いに対して200円がウォレットに移動する。

「固定貯蓄」では予め設定しておいた金額を、一部の支払いからウォレットに移してくれる。いずれの貯蓄法も、気がつかないうちにお金が貯まるという点が成功の秘訣となっている。「○○ポンドに達したら○○に使おう、金利の高い貯蓄口座に移そう」など、目標金額を低めに設定しておけば、塵も積もれば山となるの原理で、予想以上の速度で目標に達することが多い。この達成感が、貯蓄の励みになることはいうまでもない。

また貯蓄から一歩進んで、「増やす」という発想も若い世代に紹介している。長期的な貯蓄を視野に入れ、アプリやファイナンシャル・アドバイザーのブログをとおし、最適な資産運用商品を提案してくれる。

「賢くお金を貯めて増やす」金融リテラシー

ロンドンとトリノを拠点とするOval Moneyは、2016年に生まれたばかりのFinTechスタートアップだ。「賢いお金の貯め方・増やし方」をコンセプトにした金融リテラシーを展開している。自らを「オンライン・コミュニティ」と形容するだけあって、金融というよりはSNSなどを彷彿させるカジュアルさと活力に溢れている。

31歳(2015年当時)という若さでUberイタリアのマネージャーを務めた女性であるベネデッタ・ルチーニ氏、19歳の時にスタートアップを設立し、現在はクラウド・ファンディング・プラットフォーム「starteed」を運営するクラウディオ・ベディノ氏、ユーザー・エクスペリエンス・デザイナーのエドアルド・ベネデット氏など、立ち上げ中心メンバーもミレニアル世代だ。

アプリはiOS版、Android版ともに用意されている(日本では未公開)。

Oval Moneyが次世代金融市場で目指す、幅広い意味での「インクルーシブ(包括的)な発展」は、FinTechに後押しされ世界各地で急速に進んでいる。

発展途上国、先進国問わず、所得格差の拡大などで貯蓄しにくい現代社会で、少しでも多くの消費者が貯蓄できる環境を創造していくことは、持続可能な経済成長を築くうえで欠かせない要素だろう。(提供:MUFG Innovation Hub

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欧州FinTechのダークホース?ソシエテ・ジェネラルが描く「未来の金融市場」

日本では取り上げられる機会の少ない仏大手銀行、ソシエテ・ジェネラルが「欧州FinTechの中心地といえばロンドン」という図式を切り崩すべく、精力的な展開をみせている。

「Global Banking & Investor Solutions Division」内に新たに「デジタル・オフィス」を新設し、ビジネスのデジタル化にともなう法人顧客向けコンサルティングを強化する。また仮想通貨を視野にいれたブロックチェーン技術の研究・開発、ハッカソンによる人材の育成などにも余念がない。

顧客との接点に重点を置いたアプローチを実現

(写真=Kotkoa/Shutterstock.com)

「デジタル・オフィス」は、ソシエテ・ジェネラル(SG)が組織規模のデジタル改革を実施するとともに、顧客が変化に円滑に対応できる環境を提供する意図で、2016年4月に設立された。

「Global Banking & Investor Solutions Division」内に新設されたこの部門は、急速に勢いを増すデジタル化に戸惑いを感じている企業や機関に、それぞれの需要に合ったツールやサポートを提供している。

「構造とツールの簡潔化」を推進する「デジタル・オフィス」は、インターフェイスの最適化やアプリの相互接続に加え、単一のポイントからアクセス可能なウェブサイト・サービスを内部・外部のユーザーに提供することで、顧客との接点に重点を置いたアプローチを実現している。

一例を挙げると、SGの市場リサーチ部門、「SG Markets」のB2Bハブを利用すれば、顧客は取引前と取引後のサービスに単一のインターフェイスからアクセスできる。顧客の需要や環境を360度全方向から見渡したアプローチだ。

資金調達型内部ハッカソンなど、ユニークな発想で人材育成

新鮮なアイデアと才能の発掘や育成にも余念がない。2014年に開催したフランス初の金融ハッカソンを皮切りに、パリからチェコ、アフリカまで、幅広い地域で、学生や専門家を対象にしたプロジェクトを展開している。

SGが目指すオープン・イノベーション・システムは、最先端のデジタル技術を屈指し、組織内部だけではなく、既存の金融市場に創造的な新境地を切り開く基盤となる。「Collective Sandbox」という独自のオープン・エコシステムをとおし、企業、研究機関、顧客など複数のパートナーと情報やアイデア、技術を共有することで、より広範囲で奥の深い開発構造が築かれていくという発想だ。

SGの主催するハッカソンは、さらに進歩したハイテク世界の創造に向け、学生や技術者、従業員がお互いを刺激しあう場となっている。ただ単に可能性を議論するだけではなく、見込みのあるアイデアは即実用化に移す。SGの保険部門が開発した、オンラインで運転技術の評価を受けられるという画期的なアプリ、「Star Drive」 はその一例だ。

2017年にはチェコのインキュベーター、StartupYardと、コメルチニー銀行との提携で、「誰もが信頼できる未来の銀行」というテーマのハッカソンを開催したほか、アフリカでは資金調達ラウンド形式を用いた内部ハッカソンも企画した。

ブロックチェーン石油貿易から仮想通貨開発まで、多様な可能性を追求

デジタル戦略の一環として、SGが着目しているのはブロックチェーン技術だ。最近の取り組みでは2017年2月、蘭総合金融グループ、INGと提携し、ブロックチェーン技術を利用した石油貿易の概念実証を行った。「Easy Trading Connect」という名称のデジタル・プラットフォームから、国際コモディティ取引大手、Mercuriaを通し、中国、アフリカ間のコモディティ取引を成功させている。

一時は仮想通貨にも関心を示しており、2015年7月には「プロトタイプ・ソフトの開発、仮想通貨に関する最新情報の収集・分析」を目的とし、ブロックチェーン技術に精通した技術者を公募した。

それと同時にビットコインの規制の国際標準化を求めるなど、法的枠組みを明確にすることで、仮想通貨の可能性を最大限に効率よく成長させる意図が見受けられた。

しかし多くの金融機関同様、研究・開発が進むにつれ、熱意は仮想通貨からブロックチェーン技術を利用した多様な可能性に移行したのか、その後この領域に関する新たな情報は発表されていない。あるいは水面下で、構想を実現につなげる準備段階にある可能性も否めない。新たな情報のリリースが待たれれるところだ。

欧州のFinTechの動きはロンドンだけで進んでいるものではなく、多様な地域に分散した動きが相互に影響を与え合い、発展していると捉えたほうが良いのかも知れない。(提供:MUFG Innovation Hub

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